5-4.
そうしてお父さまとお話ししてから、三日ぐらい経ったある日のこと。
お父さまが大柄な体格の男性と、中肉中背の若い男性を連れて家にやってきた。そして、私はお父さまと並んで、彼らと向かい合う形で座っている。
私は、例の絵本を持って来るようにといわれたので、きっと商人ギルドへの登録やら、絵本の特許や著作権についての話をするのだろう。
お父さまがおふたりのことを、彼らと面識のない私に紹介する。
大柄な男性は、ライナルト・ブラデンブルグ伯爵。お父さまの旧知の友人で、この国に招くにあたって尽力してくださった恩人でもあるらしい。
もう一人はニコラウス・エッドガルド。商人ギルドに所属する、まだ若く新しい商会を立ち上げたばかりの方だという。今は平民の身ではあるけれど、出身はブランデンブルグ卿とも付き合いのある男爵家の四男。けれど、家住みとなって実家のお荷物になるくらいならと、自立して平民となり商売をはじめたのだという。
そんな四人で顔合わせをしたあと、ブランデンブルグ卿が口火を切る。
「バルタザール。お前のところの『青き宝石』が、国にやってきて早々に面白いものを生み出したって?」
ブランデンブルグ卿が、私とお父さまとを交互に見た。
「青き宝石」とは、前の国でつけられた「バーデン家の青き宝石」という呼称のことだろう。自分でいうのもなんだけれど、あちらの国で私は天才児として有名で、その上青い瞳の持ち主だからと、女王陛下自らが呼びはじめた。それがあれよあれよという間に知れ渡ったものだった。
「ああ、娘が転居して早々に面白いものを考えついてくれてね。ただ我が家に閉じているのは勿体ない、新しい発明だったから、上手いこと商売にならないかを尋ねてみたくてね。もし一般に売り出されたのなら欲しいという人もいるんだよ」
欲しいといっているその人は、きっと前の話に出てきたエルマーたちの家庭教師のことだろう。
お父さまが説明すると、エッドガルドさんが興味深そうに私のことを見る。
「新しい発明、ですか……」
確認したくてうずうずしている様子のエッドガルドさんを見て、私は持ってきた数冊の絵本をテーブルの上に並べてみせる。
「子供のための本です。絵が多く使われているので、私は『絵本』と名付けました。子供のおもちゃであるのと同時に、最初は読み聞かせから、徐々に自分で読めるようにと、読み書き手習いをする手助けになればと思って作ったものです」
そういって私は、エッドガルドさんに絵本のサンプルを手渡した。その本は、読み聞かせる時期を終えたら自分で読めるよう、短く、平易な文章で書かれている。
「子供のための本なんて、今までにない発想ですね。ですが、子供の好みそうな内容で、読み聞かせから始まり、その後、気に入った本を自分で読む……。ええ、なかなか面白い。堅苦しく、子供にとって苦痛な読み書きの勉強が、むしろ楽しい時間になりそうです!」
そういって、エッドガルドさん自身が子供になったかのように目を輝かせながら、サンプルで持ってきた絵本を順に眺めていく。
そうしてしばらく読みふけってから満足したのか、顔を上げて口を開いた。
「この本に書かれた内容は、私は初めて読む話なのですが、アンネリーゼさまがご自分で思いつかれたお話なのですか?」
──あー。この世界ではね。もとになったのはもとの世界の絵本の内容とほぼ同じですけど。
心苦しさはあったけれど、異世界から転生しました。その世界でのお話です、だなんて真面目に説明しても、頭は大丈夫かと心配されそうだ。
心苦しいものの、私の創作であると答えておいた。
「であれば、確かに絵本というものの特許権とは別に、この物語に対しての著作権の申請が必要ですね」
「そうなんだ。ただ、うちは普通の貴族だから、商売に対しての知識は薄くてね。それで、ブランデンブルグ卿に、実務に詳しい良い商人がいないか推薦してもらったんだよ」
「エッドガルドはいいぞ。もと貴族だから、そちらに対してのツテもある。そして、商会への弟子入りから始めて、自分の商会を立ち上げて五年経っている。そつがないし、なにより若いから、新しいものへの対応も柔軟だ」
ブランデンブルグ卿からの褒め言葉に、エッドガルドさんは恐縮しながらも嬉しそうだ。
私別に絵本作家になるためにこの国に移住したわけじゃないのよね。他にも色々興味があるから、やってみたいことはたくさんあるし。
──エッドガルドさんに、この案件、丸投げしちゃえるかしら?




