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2-5.

 家族との話を終えて私が部屋に戻ると、さっそく家の使用人たちに指示が回っているのか、私付きの侍女のマリアが部屋に控えていた。

「あなたは確か、この国の男爵家の娘だったわよね……」

 幼い頃から私の面倒を見てくれた年上の侍女だ。私は彼女を姉のように思ってきた。だから、ついてきて欲しいとは思うものの、すでに良い縁談でもあってもおかしくはない。転居先についてきてくれるだろうか?

「ねえマリア。あなたは私たちの転居の話を聞いたのよね?」

「はい、侍女頭から聞いております。もちろん、内密にといわれておりますので、外に漏らしたりしてはおりません」

「それはあなたのことだもの。信用しているわ。それで、あなたはどうするつもり? 最終的には、やはりこの国に残るのかしら? 実家はこの国の男爵家なんだもの、縁談のひとつやふたつくらい……」

 そういいかけると、すぐにマリアは首を横に振った。

「私の父は、私が他の姉妹と比べて容姿が劣っているといって、まともな縁談を持ってきてはくれませんでした。父親よりも年上の男性の後添えになる話やら、お金だけはある商家との縁談とか……」

「……そうだったの……」

 そんな話は知らなかったので、我が家で積極的に縁談を勧めることもしてやれないでいたことを、私は悔やんだ。

 実際、どうして「容姿が劣っている」などといわれるのか、不思議なくらいには、マリアは容姿が整っている。いわゆる、クールビューティーというやつだ。

 黒色の髪と瞳は派手さはないかもしれないけれど、肌は陶器のように白く透明感があり、アーモンドのようなくっきりとした形と、少し眦が上がった瞳は、彼女の聡明さを物語るかのようだった。

 あらためて彼女を見れば見るほど、二十歳を過ぎているはずの彼女がまだ婚約話もなく未婚ということが不思議でならなかった。

「なので、もしよろしければ、転居先でも私をアンネリーゼさまのおそばで使ってください」

「多分、いくら実績のあるお父さまとはいっても、あちらに移ったら最初からあまり高い爵位ではないと思うの。そうすると、あなたのおうちとの爵位のバランスが崩れるけれど……」

「……お嬢さま、もうそれ以上おっしゃらないで」

 そういうと、マリアは私の唇を人差し指で止める。

「私はどこまでもついて行きますといいました。ただ、それだけです」

 そういってくれたマリアの両手を取って、感極まった私はぎゅっと握りしめる。

「ありがとう、マリア。じゃあ、お言葉に甘えて転居先でもよろしくね。それと、転居先で落ち着いたら、あなたの縁談のことも我が家できちんと考えるわ」

「まあそれはおいおい……。お嬢さまを素敵な殿方のもとに送り出してから考えますわ」

 私たちは手を繋いだまま微笑み合う。

「あ、そうそう。お嬢さま、ご相談したいことがあったのですが……」

「どうしたの?」

「王太子殿下からの贈り物はどうしましょう?」

「ああ、それね……」

 ちょっと面倒くさいなあと、私は知らないうちにため息をつく。

 サラサが現れる一年前までは、私と王太子殿下の仲も、いわゆる一般的な婚約者同士という程度には良好な間柄だった。だから、彼から誕生日の祝いやら、王太子殿下の同伴としてパーティーに赴くときのドレスに宝石など、それなりに贈り物がたまっていた。

 そして、婚約していた当時はそれらの品を見る度、心が躍ったものだった。

 そんな年月をともに過ごしていたから、正直あの婚約破棄にはとても心が傷ついた。けれど、私には温かい家族がいて、私に寄り添ってくれるということを知ったし、マリアも私とともについてきてくれる。

 だから、もう私の心の傷は限りなく癒えていた。

 そして、王太子殿下に対しても強気に出られるまでにはモチベーションが上がっていた。

「あなたからいただいたものは、一切いりません! って叩き返してやりたいところなんだけど……」

「そうすると、引っ越しの準備をしていることを勘ぐられたりはしないでしょうか?」

「うーん。確かに追放するとかいわれたけど、家族全員とはいわれてないのよね。でも、女王陛下ご不在の今のうちなら、今は新しい婚約者と脳みそがお花畑な王太子殿下だけだし、大丈夫だと思うのだけれど……」

 私が「お花畑」というと、マリアがクスクスと笑い出す。

「じゃあ、送り返してしまいましょうね。お手紙は添えられますよね?」

「ええ、もちろん! こんなものはいりません、って、きっつーいお手紙を添えるわ!

あ、そうそう。ひとつとんでもないものがあるのよ~!」

 そういって私は宝石のしまわれている戸棚の、さらに二重底になっている場所から、ダイアモンドのみで作られた揃いのネックレスとイヤリングを取り出した。それらは、部屋の明かりを受けて、燦然と輝いていた。

「まあ! なんて素晴らしいんでしょう。こんな品、ございましたっけ?」

 マリアが首を傾げた。

「うん、これは王太子殿下からではなく、未来の王太子妃にといって、女王陛下から直々にいただいたものなのよ。なんでも、代々の王太女や王太子妃に受け継がれて、彼女たちがしかるべきときに身につけてきた逸品なのだそうよ」

「……確かにこれは、私といえど、保管場所を知っていて良いものではありませんね。殿下からの贈り物とは重さが違いすぎます」

「そうなのよ。だから、秘密にしていたことは許して欲しいの」

「……大丈夫ですよ」

 マリアが、私の両手を包み込んで優しく微笑んでくれた。

 そうして、私はマリアの手を借りて、新しい転居先に持っていくもの、置いていくもの、王太子殿下に突き返すもの、と荷物を整理したのだった。

 もちろん、呪物に近いダイアモンドのセットは、念には念を入れて女王陛下宛に丁重にお返ししたけどね!


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