表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/19

3.強くなったと思ったら、また女が増えた

 薬草採取。初心者向けの依頼。平和で安全。そう思っていた時期が、俺にもありました。


「レン、こっちに“ハルジナ草”あったよー!」


 森の中、鳥のさえずりと共に響くテンション高めな声。振り返れば、リズが腕まくりをして腰をかがめている。


 ……見えそうで見えない。


「おい、スカートで前傾姿勢になるなって言ってんだろ!」


「はっ? なに見てんのよ、変態!」


「見せてきてるのはそっちだろ!」


 なんだこの不毛なやり取り。平和なのに全然癒されねぇ。


 森は静かで、モンスターの気配もない。むしろさっきから動物がやたら寄ってくる。《フェロモン》のせいでリスが俺のフードに住みついた。かわいいけど、地味に重い。


「ねえレンってさ、どこの国から来たの? 名前とか服装、ちょっと変わってるよね」


 リズが、何気ない感じで話しかけてくる。俺は少しだけ考えてから、適当にごまかした。


「……北の辺境。山の方」


「ふーん……まあいいけど。あんた、なんか普通じゃないよね。女嫌いって言う割に、あたしには文句ばっか言うけど逃げないし」


「そりゃ、逃げたら背中刺されそうだし」


「……冗談でしょ?」


「半分はな」


 苦笑いで済ませるが、正直なところ、リズは意外と嫌いじゃない。強引だけど、口先だけでなく動けるし、森でも冷静だ。


 だが。


 この平和な時間は、長くは続かなかった。


 ――ガサッ。


 草むらが揺れる。風とは違う、不自然な音。


「レン、止まって」


 リズの声が低くなる。右手が、剣の柄に自然と伸びていた。


 俺もそっと身構えた。魔物か? いや、普通の薬草採取依頼に出るような場所には――


「ッ! 来る!」


 リズが叫ぶと同時に、視界の端に黒い影が飛び込んでくる。長い尾と鋭い牙――猿に似た形だが、明らかに異質。森猿種ウッドモンキー。凶暴で、単独でもそこそこ危険だ。


 1体、2体、3体……いや、もっといる!


「囲まれてる……!」


「リズ、後ろ! くるぞ!」


 1体が飛びかかる。リズが咄嗟に剣を振るうが、ギリギリ間に合わない――


「くっ!」


 俺は、反射的に身体を滑り込ませてリズをかばった。


 そして――


「うおおおおおおおおおッッ!!」


 俺の拳が、モンキーの顔面に炸裂した。


 ――なぜかすごく効いた。


「……え?」


 俺とリズ、同時に止まる。


 森猿は吹っ飛び、木に叩きつけられ、そのまま沈黙。


「あ、あなた……」


「い、いや、俺もビビって殴っただけで……あれ? 俺、筋力こんなにあったっけ……?」


 わからない。だが、《フェロモン》とは別に、肉体スペックも強化されてる可能性がある。女神リュミエル、説明不足すぎだろ。


「……ま、まあ、助けてくれたことは認めるわ」


「え、素直」


「ただし! さっきの“見えそうだった”発言は絶対に許さないから!」


「え、やっぱ聞こえてたの!?」


「当たり前でしょ! っていうか、あんた今の見て惚れた女増えてるからね!」


 え?


 確かに……森の茂みから、獣耳の女の子っぽいのが何人か、こっちをガン見してる。


「《フェロモン》の……せい……?」


 俺の異世界生活、どこまで巻き込んでいく気だよ。


「だ、大丈夫ですかっ!? いまの……すごかったです!」


 駆け寄ってきたのは、獣耳を持つ少女――年の頃は俺たちと同じくらいか。揺れる金色の尻尾、そしてきらきらした瞳。


「えっと……俺たちに用か?」


「はいっ! 私、メルフィナっていいます。さっきの戦いを見てて……その、ぜひ一緒に旅をさせてください!」


「いや、だからなんでそうなる!?」


「だって……すごく強くて、それに……なんだか安心する匂いがして……ふわぁ……近くにいると落ち着くというか……」


 ぐいぐい距離を詰めてくるメルフィナ。俺の袖をクンクン嗅ぐな。何フェチだお前は。


 横を見ると――リズが、引きつった笑みで腕を組んでいた。


「ふーん。新入りのくせに、もう1人引き寄せるなんて、やるじゃない?」


「いや、違うからな!? 俺が呼んでるわけじゃないからな!?」


「……《フェロモン》って、もしかして本気でやばいスキルなんじゃ……」


 今さら何言ってんだ。俺はもうとっくにそれに気づいてるよ。


 こうして、俺の“ぼっちで平和な冒険者ライフ”という夢は、また一歩遠のいたのだった――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ