表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/19

2.ギルド嬢が近い。女冒険者も近い。頼むから5メートル離れてくれ!

 モテるって、こんなに疲れるんだな……。


 異世界に転移して数時間。俺は今、町の入口で馬に鼻を押しつけられながら、地面に突っ伏していた。


「……ハァ。人間の女が来る前に、まず動物をなんとかしないと……」


 《フェロモン》。半径5メートル以内の女性全員に好意を抱かせるという、超迷惑スキル。しかも常時発動でオフにできない。


 どこの誰だよ、こんなの思いついた神。あ、いたわ。リュミエルだ。


 俺は全身毛まみれになりながら、重い足を引きずって街に向かった。


 ◇


「はいはい、次の方~……って、あら?」


 ギルドのカウンターにいた女性職員が、俺を見た瞬間ぴたりと動きを止めた。栗色の長髪に優しそうな笑顔――だったはずが、数秒後には頬を赤らめて、身を乗り出してきた。


「よ、ようこそ、冒険者ギルドへ! 初めてですか? うわっ、めっちゃイケメン……あっ、いえ、登録ですね! 登録、しますよね?」


 早い。接客の距離感が明らかにおかしい。5メートルどころか、もう目の前5センチだ。


「ちょっ……近いんだが。いや、近いって。ちょっと、胸当たってるって!」


「えっ!? あっ、ごごごめんなさい! わ、私、普段こんなじゃないんですけどっ、なんか……あなたと話してると……その……変になりそうで……」


 なってるよ、もう。


 完全に《フェロモン》のせいだ。俺は被害者だ。全然モテてない。ただ、寄ってこられてるだけだ。


「じゃ、登録だけさせてもらう。すぐ終わるよな?」


「はいっ、もちろん! 冒険者ナンバー001212、名前は……?」


「橘レン。」


「れ、レンさん……レンさんって、彼女いるんですか……?」


「おい、登録に関係あるかそれ」


「い、いえっ! 質問リストにあるんですっ!」


 あるかよ。ねえだろ、そんなの。


 俺はあまりに必死なギルド嬢――名前をアミナと言うらしい――のテンションに押され、ぎこちなく登録を済ませた。


「……で、依頼はどこで確認すれば?」


「はい、あちらの掲示板です! でも……もしよかったら、案内しますよ? 手、つないで行きましょうか?」


「遠慮する。」


「……ツンデレなんですね!? 好きです!」


「いや、やめろって……! あーもう、俺と5メートル以上離れてくれ……!!」


 こうして、異世界生活二日目。俺はまだ、人間の女の方が動物よりタチが悪いと気づいていなかった。



 掲示板に向かうと、他の冒険者たちが数人、依頼票を眺めていた。その中に――女性がいた。


(くるな、くるな、くるな、くるな)


 心の中で唱えるが、現実は容赦がない。


「あら……あなた、新人さん?」


 声をかけてきたのは、片手に剣を下げた、勝気そうな女冒険者。やや短めの茶髪で、鋭い眼差しをしている。


(近い……もう、定位置なんだな、5メートル以内が)


「ふーん、顔は悪くないけど……なんかやけにいい匂いがするのよね、アンタ。香水とかつけてんの?」


「いや、つけてねえ。これ体臭だ……いやちがう、《フェロモン》のせいだ……」


「へえ、面白いわね。あたしはリズっていうの。ちょっと気になるから、しばらくアンタのこと観察させてもらうわ」


「は?」


「文句ある? ないならついてきなさいよ、新人くん」


 勝手に名前を覚えられ、勝手に付きまとわれる――これが“モテる”ってことなのか? 俺の中で、モテることへの幻想がまたひとつ崩れた。


 ◇


「で、どれにするの? 依頼。まあ初心者だし、薬草採取あたりが妥当よね」


 リズに肩を並べられ、依頼掲示板を眺める。……というか、なんで当たり前みたいにくっついてくるんだこの人。


「……これにする。薬草採取。森の外れまで行けばいいらしいし、ひとりで――」


「じゃ、決まりね。行きましょう、レン♪」


「勝手に行動を共にするな! 誰がペア組んだ!?」


「ん? 別にいいでしょ、女一人と一緒に行くくらい……ねぇ?」


 その目は明らかに何かを期待している。違う! 俺は女が苦手なんだ! 頼むから、俺の5メートル外でいてくれ!!


 ◇


 結局、俺は断れずにリズと共にギルドを出た。アミナは名残惜しそうに「無事に帰ってきてくださいね~!」と叫んでいた。


「なあ、リズ。少し距離置かないか? ほら、歩きにくいし」


「え、やだ。なんか、離れると不安になる」


「《フェロモン》めぇぇぇぇ!!」


 誰かこのスキル、返品できませんか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ