1話
「まあ、お前とは婚約破棄だな」
私は夫のカイトにそう言われた。
何も思わない。
だって親の意向で結婚させられただけだもん。私たち。
けど、それはそれとして、今までカイトは、たくさんの酷い台詞を私に告げてきた。
容姿を蔑むようなもの、カイトがこぼした紅茶を拭けなどの命令など。
なのでほんとに私的には婚約破棄されてよかったって感じだったんだけど。
面倒なのが引っ越しをしなきゃいけないことなのよね。
私は荷物をまとめていた。明日には、宮殿の隅の部屋に行かないと。ちょっと肩身が狭い、独身令嬢の居場所。
あれ、これはなんだろう?
荷物の山から何か出てきた。
あっ。ぬいぐるみだ。うさぎのような可愛い見た目。なんとなく覚えがある。
けれど…詳細なことはあまり思い出せない。
なぜなら私は…小さい頃の記憶を失っているからだ。
ただなんか、私に悪さした人に…なにやら作用を示すものだった気がするけど。
まあいいや。
何はともあれ、久しぶりに可愛いぬいぐるみと出会うことができたので、私はそのぬいぐるみを枕元に置くことにした。
そしてその次の日、宮殿の中がざわついていた。
「何があったの?」
ご近所のお部屋の方々に聞いてみたら、
「あなた、結局婚約破棄されてよかったわね!」
って言われた。もしかしてカイト関係で何か騒動が?
詳しく聞いてみたら、カイトが宮殿の金銀を横領しているのがバレたらしい。
そ、そんなことをしてたなんて。流石にただ性格が悪いだけでそういう法律違反の仕方はしないと思っていた。
私としては呆れちゃったわね。
カイトはかなりの処分を受けることになったみたいよ。
それからまたさらに数日経って。
またカイトのことで噂が回っていた。
今度はなんだと思っていたら、私と正式に婚約破棄する前に、三人の女性と浮気していたらしい。
大胆な恋愛のやり方すぎる。
これまた私としては呆れちゃったわね。
そんな私は思い出してきた。
そうだ。誰かからもらったんだ。
私に悪いことをした人にばちが当たるぬいぐるみを。