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第五話:たどり着いた場所

ーーーー 夢をみた。暗い穴倉に落とされた夢を


光さえ届かない穴倉を一人の男が出口を求めて彷徨い歩いている。


自分は〝この男の視点〟で夢を見ているようだった


この男が誰なのかわからない。


何処を目指しているのかも、何故穴倉に落とされたのかも自分にはわからなかった


ただ、一つだけ。男のある感情が自分に強く伝わってくる。



怒り。



何故怒っているのか、それは自分にもわからない。だが〝男が怒りに身を任せ〟闇の中を進んでいる事だけは



三雲に強く伝わってきたのだった。





-・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「う、・・・う、ん、・・・・」



胸元に感じるもふもふとした感触と中々の重量感に三雲はゆっくりと瞼を開く。


自分は確か怒りに任せて野盗達を斬り殺し、そしてその血の香りに誘われて襲いかかってきた魔物達を無我夢中で斬りつづけていた筈だ。


しかし、目が覚めたそこはふかふかの寝床。


そして飛び込んできたのは暖かな木の天井と自分を覗き込む三郎の姿


そして


「おおう、やっとお目覚めか青二才よ。一時はどうなるかと思っておったが・・〝女将〟の荒治療が上手いこと働いたようじゃのう。」



素晴らしいワガママボディ・・・いや、デ・・・・〝まん丸ボディ〟の喋る猫が三雲の上に乗っかっていた。


見た目はハチワレの長毛種。黒と白のコントラストが部屋から差し込む朝日に照らされてキラキラと輝いているが問題は猫が言葉を話すと言うことと、尻尾が二又に別れていると言う事である


「・・・デブ猫・・・」


「何おぅ!?小生のワガママボディにずいぶん酷い物言いをしおってぇ!!・・・・にゃほん。まぁ仕方ない。まだまだ若者にこの魅力は理解できんだろうからな」


三雲の言葉に一旦は毛を逆立てた猫だったが、すぐに穏やかな雰囲気に戻ると近くの椅子にぴょんと飛び移りこちらに視線を向ける。


三雲も体を起こせばどうやらベッドに寝かされていたらしく、近くには簡易的なテーブルも用意されているのが見えた。


「改めて・・小生の名はキャスパー。しがない魔術猫である。よろしくな若いの」


「ご・・・ご丁寧にどうも・・・三雲です。あと、ソッチに浮いてるのが・・・」


しゃべる猫、キャスパーに三雲が近くに居た三郎を紹介しようとするが


「いんにゃ。説明はいらんぞミクモ。お前がぐーすか寝ている間に三郎殿とは話をつけておる。」


「・・・・三郎殿ぉ?」


「いやはや、ほんとうに懐かしい気配・・・・2000年は生きてきたが〝また〟龍種をこの目に出来ようとは・・・小生は感激しとるよ」


首をかしげる三雲を他所にキャスパーはくしくしと顔を洗う仕草をすれば言葉を続けた


「さて、お前さんが目覚めた此処は〝世界樹〟の国ユグドル・・・その中央部にあるヴィヴィアン湖から少し離れた冒険者の街ビャルカンにある酒場《大熊のぼったくり亭》よ。」


「世界樹の、国・・・・・」


「此処の女将がいつもの日課でヴィヴィアン湖の森にいる魔物相手に鍛錬しようと訪れた所・・・血塗れで倒れていたお前さんを見つけ運んできたと言うわけさ。」


いまいち状況が掴めず、三雲が首を傾げたその時、目の前にあるドアの向こうから階段を登る足音と一緒に歌声が聞こえてきた。



「お、噂をすれば女将が来たようだな」


「女将、さん?・・・・」





荒くれ ごろつき のんだくれ ♪



どんな相手も大事なお客 ♪



歓迎するとも腹一杯 食わしてやろうか フルコース ♪



美人な女将の名物料理 ♪



冷えた麦酒 に 樽酒も ♪



心も腹も満たされりゃ ♪



みんなたちまち笑顔あふれる ♪



そうさ此処は みんなの酒場 ♪



一度来てみな 大熊ぼったくり亭 ♪



明るく軽快な歌に耳を傾けていた三雲だったが、歌が終わったと同時にもの凄い音を立ててドアが蹴破られた・・・と言うより蹴りの威力が凄まじくドアは無残にも粉々に割れて床に散らばってしまった


「おや!目が覚めたみたいだねぇ!よかったよかった!」


そこに立っていたのは豪快な笑い声を発しながら左手にパンの入った籠、右手に暖かなスープ皿を持った一人の女性だった。


エプロン姿にはち切れんばかりの胸元だが腕はがっしりと筋肉質である。そしてクリーム色の髪から除く長い耳と褐色の肌に、三雲はその女性が異世界物でよく出てくる種族、ダークエルフであると確信した。


「しっかし驚いたよ!いつもの日課でヴィヴィアン湖まで足を伸ばしてみりゃあ・・・倒されてたキラーベアーやブラッディボアの近くで女の子が血塗れで倒れてると来た!慌てて担いでウチに連れ帰っちまったよ!」


「いや、しかしな女将・・・だからといって見ず知らずの怪我人にいきなりハイポーションぶっかけるのはどうかと思うぞ?」


「良いじゃないのさお陰でこの子が助かったんだから・・あぁ、自己紹介がまだだったねぇ。アタシの名前はエバ。この《大熊のぼったくり亭》の女将さんってやつさ!」


呆れるキャスパーを他所にエバはにっこりと人なつっこい笑みを浮かべるとパンの入った籠とスープ皿をテーブルにおけばどかりと近くの椅子に腰掛けた


「・・・助けてくれてありがとうございます。その、三雲と言います」


「ミクモね!不思議な名前だねぇ。ウチの旦那みたいだ。・・・にしてもアンタなんであんな場所に倒れてたんだい?見慣れない服装だしそれに・・・」


と、エバは三雲をまじまじと見つめた後に近くに浮いていた三郎に目線を移した



「〝龍憑き〟(りゅうつき)なんておとぎ話だけの事だと思ってたよ・・・」


「龍憑き?」


「アンタみたいに龍種様に憑かれてる奴のことを昔はそう呼んでたのさ。・・・まぁ、今となっちゃあ完全に伝説上の話になっていたけどねぇ」


苦笑いを浮かべるエバに三郎はつまらなそうにあくびをすると三雲の髪を静かに撫でる


「嫁御殿、どうだろう。俺の提案なんだが・・・この者らには話しても害は無いと思うんだけれど」


「・・・・まぁ、三郎が言うんなら・・間違いない、か」


アルヴァロンの人間とは違い、どうやらこのユグドルと言う国では龍と言うものにあまり悪いイメージは無いように感じた



「・・・・じつは、ですね」


三郎の言葉に三雲は小さく息を吐きキャスパーとエバを交互に見るとぽつり、ぽつりと今まであった出来事を語り出すのであった。














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