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第四話:邪悪

《騎士帝国アルヴァロン首都、円卓の間》


ドアの向こうから兵士達の慌ただしい足音が聞こえる。玉座の間での騒動後、夜達は円卓の間と呼ばれた会議室に通されここで待つようにと言いつけられた


「・・・大変なことに、なっちゃったね」


皆が沈黙を貫く中で三雲や夜たちと共に召喚されたうちの一人、花谷桃乃はなたにもものがぽつりと呟いた


その呟きに反応するかのように今度は夜の近くに座っていた音森陽葵おともりひまりも声を上げる


「つ、つーか!なんでみーやんだけあんな扱いされちゃうのさ!おヒマは意味がわからんぞ!」


「だから、雲に憑いてるアレの影響が出てしまった結果なんでしょ?・・・さすがに殺す。ってのはやり過ぎだと六実さんも思うけどさ」


壁にもたれかかりながらそう返す六実に一同の顔が曇る。



三雲にヤバイ物が取り憑いている。と言ううわさは確かに耳に入っていた。


現に、確実に出る。行ったら最後何かしらの事故に見舞われると噂された心霊スポットに肝試しへ皆で行った時も〝何かに怯え逃げ惑う叫び声〟や〝激しく何かがぶつかり合うラップ音〟が響き渡り、その結果全員事故には遭わなかったが後日その心霊スポットは取り壊されたりなどなったり


初詣に有名な神社へ皆で参拝に行った時も三雲だけ〝原因不明の体調不良〟にあい参拝出来ずに終わったなど


常識では解明できない様々な出来事があったが


それでも、三雲の人柄や雰囲気のお陰もあり一緒に行動したくさん思い出を作ったりなどをしてきたのだ


第一に幽霊や不可視の存在など夜達はあまり信じるようなタイプではなかったし、三雲に付きまとうそんな噂話など気にもしていなかったのだ



ーーーーー あの男を見るその時までは



「・・・なんなんだろうねアレ」


「龍種、って兵士さん達は言ってたけどそれが何よ。・・・アレが三雲ちゃんを苦しめていることに変わりないんだから」


陽葵の言葉に桃乃は唇を噛み締め怒りの表情を浮かべる。そんな様子を眺めながら苦笑いを浮かべた六実は先ほどから聖剣を持ち沈黙を貫いている夜に視線を向けた


「大丈夫かね夜ちゃん?・・・三雲の奴、『皆を頼むー!』なんて最後格好つけてたけどさぁ・・・」


「・・〝俺〟なら大丈夫ですよ六実さん。」


「?・・・・夜ちゃん?」 


ふと感じた〝違和感〟に桃乃と陽葵は互いに顔を見合わせる。そんな二人を察してか六実が夜に近寄り顔を覗くも、いつもと同じ夜から朝に変わる色の瞳が六実を見て小さく笑みを浮かべると、また目線を聖剣に戻した


「三雲さんの事も心配ですけど・・・今は自分たちの事を考えないと」


「そ、そりゃ、そうだわね・・・(夜ちゃんの雰囲気が・・何か、変わった?)」


聖剣マルミアドワーズは窓から差し込む夕日の光に反射しその輝きを増している



「・・・・・・」




ー 皆を、頼む ー





「(・・・・結局、アンタもソッチなんですね。三雲さん)」


三雲の最後の言葉を思い出しながら、夜は心の中で静かに呟くのだった










一方、騎士帝国アルヴァロンより北東側、世界樹の国ユグドル領地



「・・・・なんとか、生きてるわ」


あの混乱の中から何とか脱出した三雲が転移した先は森の中だった。


仰向けに倒れているため生い茂る木々の隙間からは茜色に染まった空と雲が見えていたが不意にそれを遮るかのように自分を覗き込む男と目が合った


「気分はどうだい?嫁御殿」


「・・・・よくあるハズレ枠転生漫画の主人公の気持ちがちょっとわかったわ。」


「戯言が言える余裕があるならなによりさぁ」


男の差し出された手を無視して体を起こし辺りを見渡せば足元には先ほど使用していた刀が転がっている 


「・・・・・」


それを見た瞬間、三雲は自身の手を見つめぽつりと呟いた


「ーーーー  殺しちゃったなぁ。」


今だ手に残る肉を裂いた感触。


鼻をつく鉄錆の香り


生暖かい血の温度



初めて、自分は殺人という行為をしてしまったのだ。


「う゛ッ・・・・!!!」


その現実を改めて実感したその瞬間、胃の内容物が一気に逆流してくるのを感じて三雲はその場で吐き出してしまった。


それだけでは無く、まるで酷い筋肉痛のような痛みが全身を駆け巡っていく


「あらら・・・今反動が来てしまったようだねぇ・・大丈夫かい?嫁御殿」


吐きながら蹲る三雲の背を摩りながら男が声をかける


「ッ・・・かひゅッ・・・・はッ・・・」


声を出すこともままならず、三雲は視線のみを男に向ける。その様子に男は最初は首を傾げていたが「あぁ、」と小さく反応し


「それじゃ会話もままならないか。ごめんごめん」 


そう気楽に言葉を返せば三雲の項に手を当てそのまま背中までゆっくりと撫でると



「・・・・マワリテメグル、イムヤコト。」


そう何かを唱えてまるで埃を払うような仕草をすれば、痛みが先ほどよりは和らいだ感覚がした。


「っ・・・・痛み、が・・・まだ少し筋肉痛みたいなのはあるけど・・・」


「ちょっとした真似事さぁ・・・ま、分け御霊くらいだとこのくらいしかできないけどねぇ」


驚く三雲に男はそう言葉を返せば宙に胡座をかいて三雲を見ていた


「身体強化の術・・・あ~、ぎふとだっけ?アレの反動が一気に来たようだったからねぇ。」


「っ・・・・助けて、くれたの?」


「助ける?っはは!まっさかぁ!・・・こんな訳もわからない場所で嫁御殿に死なれたら俺が困るからやったまでのことだよ」


ニタリ、と邪悪な笑みを浮かべる男に三雲は深くため息をつき頭を少し乱暴にかくと男を睨む


「・・・つーか、〝名前〟とか無いの?」 


「名前?」


「私が子供の頃から今までずーーーっと憑いてたくせに名前とか名乗ったりしないんだもん。別に気にしてなかったけど、今は緊急事態なんだから!名前とか教えるべき!」


びっ、と人差し指を差してくる三雲に男は顎鬚を撫でて「うーん」と小さく唸る。そして少し考え込み



「・・・・・三郎。」


「は?」


「三郎って呼んで貰えるかな?嫁御殿」


まさかの名前に三雲は更に眉間の皺を深くすれば男、もとい三郎に話を続けた


「巫山戯てんのか!偽名でしょ!!適当に考えたでしょ!」


「〝本名から少し省略〟しただけだよぉ」


へらへらと笑う三郎に三雲はさらに声を荒げた


「本名あるならちゃんと本名を名乗れ!!緊急事態ったろうが!!」


「そりゃあ駄目かなぁ・・・・教えてもいいけれど・・・〝本名を聞いたら嫁御殿は確実に障りがある〟だろうからねぇ?・・・・まぁ、嫁御殿がそれでもいいなら構わないけど」


にっこりと笑みを浮かべる三郎に三雲は「止めておきます」と冷や汗をかきながら、また辺りを見渡した



「・・・マジでどこよ此処・・・」


「さっきみたく〝なびげぇと〟とやらには頼らないのかい?」


「あ、あぁ、そっか・・・・えー・・天の声?ナビゲーション?現在地教えて!」


三郎の言葉に三雲は声をかけると目の前にメニューバーが表示された 


「・・・ヴィヴィアンの森?」


【現在地はハイランディア大陸、アルヴァロン隣国、ユグドル領地中央部ヴィヴィアン湖付近です。】



三雲がそう答えるとさらにメニューバーが広がりナビゲーションの機械的な声が響く




「アルヴァロンとは違う別の国に居るって事か・・・」 


【このまま北東に約1キロ進めばヴィヴィアン湖に到着します。ナビゲートしますか?】


「ヴィヴィアン湖ねぇ・・・・・行ってみるか」


【了解。ナビゲートを開始します】


三雲の声にナビゲーションの機械的声が了承すると小さなマップ画面が現れた


そのマップに従い三雲と三郎が森の中を進むとやがて眼前に立派な湖が現れた


「うわぁ・・・・めちゃくちゃ綺麗な湖・・・・」


目を輝かせ三雲が湖を見つめていると側で浮いてい三郎も眼を細め小さく笑みを零した


「確かに良い場所だね・・・〝神聖な空気〟が満ちてる。水も清らかだ」


「え、わかるの?」  


「まぁ・・・多少はねぇ。」


三雲の言葉に三郎がそう返すとナビゲーションの声が聞こえ、目の前にヴィヴィアン湖のマップが表示された


【ヴィヴィアン湖、ユグドル国にある大型の淡水湖。主にシルバートラウトや苔ヤマメなどが生息しています。】


「今魚の話は止めてくれよ・・・腹減るじゃん・・・」


【また、〝微弱な龍脈〟の流れを探知しました。】


「え?」


ナビゲーションの説明に三雲は三郎に視線を移した


「い、今龍脈って・・・・」


「あぁ。言ったねぇ・・・・推測にはなるけれどこの湖・・・〝龍神が住んでいた〟のかもしれないねぇ?」


そう返す三郎に三雲はさらにナビゲーションに声をかけた


「こ、此処ってもしかして龍に纏わる伝説とかあったりする?」


【検索いたします・・・・一件ヒット。ヴィヴィアン湖には大昔に〝ヴィヴィアーン〟と呼ばれる水龍が居たようです。】


「!・・・水龍・・・」


【詳細は〝ユグドル国女王〟に話を聞く事を推奨します。】


「マジかよ・・・・・」


ナビゲーションの説明が終わると三雲は頭を抱えた。


「で、これからどうするんだい嫁御殿」


「どうするもなにも・・・・アルヴァロンには戻れんだろ・・・・皆が心配だけど」


三郎の言葉に三雲は残してきた夜たちの事を思い出す。


「(・・・皆を頼む。なんて咄嗟に言っちまったけど・・夜の奴、〝思い込んだら変に追い込む癖〟があるからなぁ・・・そこがちょっと心配だけど・・・)」


「あの英雄サマが心配かい?嫁御殿」


ふと、心の中を読まれたかのように三郎が声をかけた


「・・・当たり前だろ。同年代の六実が居るけど・・後輩の夜や桃ちゃん、陽葵ちゃんだって居るんだ。心配するに決まってんでしょ」 


「へぇ〜?・・・・君が殺されようとしていても〝見ているだけ〟だった連中なのに?」


三郎の声に三雲の肩がぴくりと揺れる


「それに嫁御殿、忘れたとは言わせないぜ?・・・今の嫁御殿は〝今までとは〟丸っきり違うんだよぉ」


「・・・・・黙ってろ」


三郎の言葉に、数時間前の惨劇が脳裏に浮かぶ


「俺の呪があったせいとは言え・・・君は多くの人間を殺害している・・・〝まるで怒れる神が容赦なく祟りをまき散らす〟かのようにねぇ」



断末魔、宙を舞う生首、肉の裂ける感触。


「・・・・口を閉じろってんだよ・・・」


わなわなと拳が震える。ふつふつと怒りの感情がこみ上げてくる


「・・・なによりさぁ、〝あの目〟だ。」



「ーーーーー !!」



「何千何万回と君を不快にさせてきたあの目、・・・得体の知れない化け物を見るような目だ」



ー この者を殺しなさい! ー



ー 災厄の勇者め! ー




・・・ そうだ。ずっと向けられてきた



自分を見つめるあの目に何度苦しんだことか



自分は被害者のはずなのに、この得体の知れぬ存在のせいで〝自分も同じようなモノ〟として勝手に決めつけられ


時には腫れ物に触るような扱いをされ、時には村八分のような扱いを受けてきたのだ



ーーーー まるで、こちらが〝邪悪〟であると勝手に烙印を押された



「それに嫁御殿。」



俯く三雲の耳元に顔を寄せて三郎が低く呟いた



「ーーーー 本当は〝楽しかった〟んだろう?」



敵意を向けてきた者を容赦なく屠る事が


正義を掲げ自分を殺そうとした者を斬りふせた事が



やはりそこは人外の物か。


三雲の奥底に


本人ですら気づいていない感情にこの男は気づいていたのだ



「・・・・殺したくは、なかったんだ」



敵うなら殺したくはなかったのだ。あの時、他に術もあったはずだった



「なら自分の腕を切り落としてでも止めることは出来たはずだろう?・・・一人であの場から逃げることも、舌を噛みきることも出来たはずさぁ」



そう。方法ならいくらでもあったはずなのだ


だが、それをしなかったのは何故か?



ーーー  赦せなかったのだ。



自分たちの〝正義〟で此方を〝邪悪〟と見なして殺そうとした奴等が赦せなかったのだ。




「・・・・・ふ、ふは、は、」


赤い夕日がゆっくりと沈み、冷たい風が吹き抜け湖面を揺らす


その時だった



「なんだぁ?こんな所に女が一人居るじゃねぇか。」


森の奥からぞろぞろと複数人の野盗らしき男が現れ三雲を取り囲んだ


「お姉さんよォ・・・こんな所に一人じゃ危ないぜ?」


「俺たちみたいな輩がいるんだからなぁ!ぎゃはは!」


仲間の一人が下卑た笑みを浮かべながら三雲に近づき顔を覗き込む


「中々良い面してんじゃねぇか。このまま売り飛ばせば金になーーーーーー」



そう言い終わる前に男の口内を刀の刃先が刺し貫き、そのまま横に薙げば男の顔はすぱりと斬り放されて地面に転がった


「・・・・ふ、くく、ははは、」


びくびくと痙攣する胴体部分を蹴り飛ばし刀を構えれば三雲は野盗達に目線を向ける。



「こっ、この女!!」


「構わねぇ!全員でたたみかけちまえ!」



野党がいっせいに武器を構えて三雲に襲いかかった



これがギフトの影響なのか、はたまた〝自分の中で何かが壊れてしまった〟のかは自分にはわからない



だが、三郎に心の奥底を暴かれたその時


三雲の中で〝何かが死に、何かが産まれた〟のは事実であった



「・・・来るならこいよ。」



刀を構え、三雲は笑みを浮かべる




「こうなったら・・・立ち塞がる奴等全員、斬りふせてやる!!!」



登り出した満月の下で、殺戮の舞台の幕が上がった。







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