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第二十五話:三雲と三郎(中編)

三雲は夢を見た。


誰かの膝枕で眠る夢だ


大きくて少し骨張った手が優しく頭を撫で、甘い果物の香りが鼻を擽る


とても心地よくて堪らない。


思わずずっとこうしていたい気分になってしまう


「・・・それならずーっとこうしていればいいさぁ。」


微睡んでいると優しい男の声が耳に入ってくる。優しく頭を撫でる手の感触や温度が心地よくて堪らない。



「ずっと此処でこうしていておくれ・・・君が欲しいものなら此処にはたくさんあるし・・俺も側に居る。・・・なんにも不自由な思いはさせないよぉ?」



男の声に、それも良いかもしれないと三雲は心の中でそう思い意識を手放そうとした




ーーーーいや、違う。



ふと、三雲の脳裏に家族の顔や友人たちの顔が浮かぶ



「だめだ、わたしかえ・・・・」



そうだ。帰らなければならない。友人や家族が自分を心配しているのだから


そう思い三雲は目を開き体を起こしたが




「っひ!!?」



飛び込んできたのは何千何百という数の蛇が床一面を埋め尽くしている光景だった


三雲の服の中を這いずり回り足首や腕に絡みついてきた矢先



「帰れる訳ないだろぉ?嫁御殿・・・」



ぐ、と太い腕で抱きしめられ右の耳元で低い男の声が囁いた




「君はもう・・・・俺の物なんだからさぁ・・・」




















・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「うわああああああああ!!!助けてぇえ!!!」


叫び声を上げながら体をがばりと起こすとそこは祖父母の家の一室だった。


磨り硝子の向こうから朝日が零れており、雀の鳴き声も聞こえる


「・・・・夢、だったの?」



ならどうして自分は祖父母の家で寝ているのだろうか。翔太たちはどうなったのか。


ーーーー ミジャ様はどうしたのか


わけもわからず辺りを見渡していると三雲の叫び声に気がついたのか祖母が慌てたように部屋に入ってくると力強く三雲を抱きしめてきた



「みーちゃんッ!!・・・・よかった・・・無事でよかったよ・・・」


「お、おばあちゃん・・・ごめんなさい、わたし・・」 


祖母の温もりに安堵したのか三雲はその場で泣きじゃくりながら何度も何度も謝罪の言葉を述べた。祖母は三雲を叱ることはせず、何度も何度も頭を優しく撫でながら「みーちゃんが無事だったなら、ばあちゃんそれだけでええんよ」と目に涙を浮かべながら優しく頭を撫でてくれた



「っ!!そ、そうだ!!ミジャ様が!!ばあちゃん!!翔太は!?」


「・・・・・みーちゃん・・いい?おちついてきいてな?」


翔太達がどうなったのか気になっていた三雲に祖母は静かに語り出した。



あの日、夕方を過ぎても帰ってこない三雲達を心配して大人たちが町中を探していると裏山から雪子と浩介が泣きながら走り降りてくるのを見つけ訳を聞いたのだ


「し、翔太が・・・ミジャ様を見たって叫びながら逃げていって・・・」


「みーちゃんが・・・みーちゃんがまだ蛇穴の中にいるの!!このままじゃみーちゃんが殺されちゃう!」


浩介と雪子の言葉を聞いて三雲の祖父を中心とした大人たちが慌てて蛇穴に向かうと入り口付近で三雲が倒れており、そのまま家に連れ帰ったのだそうだ。


・・その日の夜、三雲と浩介と雪子は原因不明の高熱を出し、しばらく苦しんだ。 


雪子や浩介は翌日には回復したものの、三雲の熱は中々引かず目を覚ますまでなんと一週間も寝込んでいたそうだ。



そして、翔太だが



「・・・・しん、だ?」



あの日、町中の大人たちが探しても翔太はどこにも見つからず・・・数日後、田んぼの中で無数の蛇に噛み付かれた状態で亡くなっていたそうだ。


死因は蛇に噛まれたことによる出血死と発表されたが、あんなに複数の蛇が子供に噛み付きあまつさえ死に至らしめた事が偶然に起きるわけが無く

 


「・・・祟りだ。」



「ミジャ様に祟られたんだ」



そう町の大人たちは口々にしたのだ。




その後、三雲の熱はすっかり下がり新学期が始まるといつものように学校に向かった




ーーーーー しかし、この日を境に三雲の人生はだんだんと歪んでいってしまったのだ。



まず、三雲が廊下を走っている男子に謝ってぶつかってしまうと、突然窓ガラスが割れた男子の右足に破片が突き刺さり大怪我を負った。



また次の日は三雲に注意をした教師が帰宅中に交通事故に巻き込まれて死亡。



女の子を庇い三雲がいじめっ子相手に喧嘩をし、そのいじめっ子は工事現場の前を通った際に降ってきた鉄パイプの下敷きになり死亡した



「三雲に関わったからだ。」



「あいつ、ミジャ様に会っても平気だったんだろ?」


「・・・ミジャ様に呪われてるんだ。」



クラスでは友達も多く居たはずの三雲だったが、小学校を卒業し中学に上がった時にはもう



三雲の周りには誰も居なくなっていた。



「おい、早蕨だぞ・・・」


「怖ぇ~・・・呪われんぞ」



クラスでも孤立し、誰も三雲に話しかけようとする生徒は居なかった



だから、三雲もあまり周りの人間に心を開かないようにいつも一匹狼を気取り3年間過ごしてきたのだ



そんな、中学二年の夏の頃だった



席替えをする事になり皆がくじを引いて新しい席順が決まった時のこと


「先生。席を変えてほしいんですけど」


三雲の近くになった男子が手を上げて教師に声をかけてきた


「なんだ田村、席替えしたばかりだろ?」


「だって先生ぇ!俺こんな〝呪物〟の隣で二ヶ月も過ごすとかマジ無理なんですけど!」


「・・・・」


男子せいとがわざとらしくそう叫ぶとあたりからクスクスと笑い声が響いた


「なぁ~!誰か代わってくれよマジで!俺殺されちまうってえ!」


「田村我慢しろって!塩かけとけよ!なんとかなるかもだぜ!?」


「ぎゃははは!古典的すぎんだろ!」



クラス中の罵声や嘲りの声に三雲は唇を噛み締め下を向き耐える。



何故自分がこんな目に合わなければならないのか


祟りなんてあるはずがない。



もし、もし仮にミジャ様の呪いがあるのならば



「・・・どうして、私ばかりなの」


そう三雲が呟いたその時、突然地鳴りが響き渡り教室の窓や扉がガタガタと揺れ出したのだ


「!?」


それだけではない。三雲の隣に居た生徒が急に苦しげに顔を歪めれば喉を押さえ始めたのだ


「がッ・・・あ゛、え゛?・・・」


「おいおい田村演技めちゃくちゃ上手すぎるだろ」


「もういいってそういうの」


側に居た男子たちは笑って誤魔化すが、その生徒は途切れ途切れに答えるとさらに自分の顔を急に掴み思い切り首を反対方向に曲げようとしだしたのだ



「だず、げ、・・・くび、おれる゛、だれ、か」


「た、田村!!マジ止めろって!!笑えねぇよ!!」


「ち、ちがっ・・・わ゛さ゛とじゃ、ね゛」


だんだんと顔がまっ赤に染まっていき目玉が飛び出し、口からは泡が吹き出し初めていく


やがて、ぽきりと鳥の骨を折るような音が響き渡り生徒の頭が完全に背中側を向くと、その体はドサリと地に伏せびくびくと痙攣したのち動かなくなった



「ーーーーーー   」



「きゃああああああああああ!!!!」




一瞬の沈黙が走ったのち、女生徒が悲鳴を上げると窓ガラスが一斉に割れ突風が教室内に巻き起こった


「っ!?」


咄嗟に机の下に隠れ身を縮こませながら三雲はなんとか突風が収まるのを待つ。恐怖で可笑しくなりそうな頭を必死に理性で押さえ込み、突風が収まったのを確認するが



「・・・・・は?」 



そこはもはや血の海と化していた。


怪我をしたまま気絶した女生徒や、壁に体を打ち付けられ蹲る男子生徒


そして、事切れた教師の側で教壇に足を組み座ったまま



こちらを見つめる男の姿が三雲の目に飛び込んできた





「・・・・やぁ。嫁御殿。大丈夫かい?」



血塗れのまま男は三雲に笑いかける



「・・・・なん、で・・・・」



「〝俺の花嫁〟に無礼な態度を取ったんだ。・・・・こうなって当然だろう?」


鼻歌交じりに男は三雲を見つめながら教壇からおりると血溜まりの中を歩き三雲のまえに立つ。



「嫁御殿、わかってるだろう?・・・・君はもう逃げられない。」


赤く濡れた男の手が三雲の頬を愛おしげに撫でる


「禁忌を犯してこちらに近づいてきたのは君だ。」



「わ、わた、し・・・・わたし、は」 



「・・・・契約はもう結ばれてる。」




絶望の表情を浮かべる三雲に男は顔を近づけ狂笑を浮かべた










「たとえ君が死んだとしても・・・・その魂さえも俺の物なんだよぉ。愛しい愛しい嫁御殿・・・・」


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