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第二十四話:三雲と三郎(前編)

あれは三雲が6歳の頃だった。



三雲の住んでいたのはN県の山の中の小さな田舎町だった。冬になると積雪が多くなり、交通の便などは大変だったものの、三雲にとっては自然の中で遊ぶことが楽しくて仕方なかったのだ


父と母、そして一キロ離れた古民家に住む父方の祖父祖母。


大好きな家族に囲まれて三雲は幸せだった。なにより、父方の祖父は神主の仕事もしていたため祖父が語る不思議な話や怖い話の実体験を聞くのが三雲のお気に入りでもあった。そのため学校が終わるといつも祖父祖母の家に向かい日が暮れるまで話を聞いたり古民家の周りで遊ぶのが日課になっていたのだが



「裏山には絶対に行ったらいかんぞ。」 


祖父は三雲にいつもそう言い聞かせていたのだそうだ



「なんで?猪とか熊でるから?」



「わっはっはっ!んなモンでたらじいちゃんが返り討ちにしてやるわい!・・・・・だが、そうじゃないんだ。」


不思議がる三雲の頭に手を乗せて祖父は裏山を見ながら語る



「・・・・・あそこには、ユイマに繋がる蛇穴があるからな。・・・」 


「へびあな??」


「あぁそうだ。・・・・蛇穴はユイマの国に繋がっとる。・・・ミジャ様に連れて行かれちまうからな。」



なんでもこの地域には代々蛇神信仰、または龍神信仰が今も強く根付いていて



神話の時代、武人との戦いに敗れた龍神がこの地まで逃げてきて地の底にあると言われる蛇神達のユイマを新たな住み家としたのが始まりなのだそうだ。


三雲は神話や妖怪の話が大好きで、もちろん祖父が話すミジャ様の事も恐怖は無くずっと気になっていた


だからこっそり祖父に内緒で蛇穴を探してみたがそれらしきものはまったく見つからず


仕方なくいつも裏山に向かって手を合わせたり、神楽舞いの練習などをして過ごしてきたのだった



そして月日は流れ師走の頃、事件は起きた



「?」


風呂から上がりパジャマを着て床につこうとしていた三雲だったがけたたましく聞こえるサイレンの音と赤いランプが窓から漏れていることに気づく。


何かあったのかと思いジャンパーを着て玄関から出てみれば数台のパトカーや救急車が裏山の入り口付近に止まっておりよく見れば野次馬まで出来ている


三雲も母と共に駆けつけると町内会の年寄り連中達が皆声を潜めて話ながら前を見ていた



「・・・佐竹っちゃん所の馬鹿孫がやりよったらしいぞ」


「んだども・・・伝説じゃなかったんだべか?」


「正吉っつあん所の孫二人も行ったらしい・・・けんどありゃだめだな」


なんの話かわからず三雲が首を傾げていると祖父が警官や村長と話しているのが目に飛び込んでくる。側には佐竹っちゃんと呼ばれる祖父の友人が顔面蒼白で泣き崩れているのが見えた



「ウチの孫が・・・・颯の腕が・・両腕がミジャ様に持ってかれた・・・」


「正吉っつあんとこのタクマとケンスケも駄目だな・・完全に気ぃ狂っちまってる」


「・・・・直ぐに祝詞を唱えて鎮めの儀をせんといかんな」


なにやらブツブツと話している祖父に声をかけようとするが、かけつけていた祖母にそっと止められ手しまった


「・・・・みーちゃん。今日はママとお家にかえんなさい。今見たことは忘れたほうがええ」


いつも穏やかな祖母の険しい顔に三雲は大人しく首を縦にふると母とともに家に帰りその日は大人しく眠りについた



それから、三日後の事。正月三が日のため小学校の仲が良いグループと遊んでいた時、リーダー格の翔太が皆に声をかけてきた


「なぁ、今から裏山行こうぜ!」


「裏山?でもじいちゃんは行ったら危ないって言ってたよ?」


「うちのばあちゃんも・・・」



翔太の言葉に一緒に居た雪子と浩介も互いに顔を見合わせていたがふと翔太がニヤリと笑い声を潜め



「じつはさ・・・・あるみたいだぜ?蛇穴」 


「え!伝説の話じゃないの?」


「一昨日救急車とか警察たくさん来てただろ?・・・アレ、正吉っつあんとこの大学生の兄ちゃんが蛇穴に入ってミジャ様に祟られたからなんだって!」


翔太の言葉に三雲も思わず顔をあげる


「だからさ、俺たちで行って探してみようぜ!蛇穴!」


「や、やだよ!おっかないよ!」


「見つけたらすぐ帰って来りゃいいじゃん!なんだよ浩介、怖いのか?」


「そ、そんなことないけど」


「じゃあ決まりだな!三雲も来るよな?」



翔太の言葉に三雲も思わず首を縦に振る。


そうと決まれば話は早いと翔太は一旦家に戻りバレないように懐中電灯を持ってくると皆で裏山に足を踏み入れた。


雪がまだ所々に残っているとは言え、山の中は不気味なほどに静かだった。


「無いなぁ蛇穴・・・」


それらしい洞窟を見つけるが手応えは無く、その後も辺りを捜索するがそれらしき穴は見当たらなかった



その時だった



「こ、これかな・・・」


後ろを歩いていた雪子の声に皆が振り向くとそこには大きな洞穴があった。


しかしそこには注連縄が張り巡らされており



「うげ!なんだこれ!きもちわるい!」


洞窟の壁には丸々と太った牛蛙が石の鏃で串刺しになっており赤黒い血の跡が線をひいて残っているのが何十、何百と確認できた


そして洞窟の横には古びた石碑がぽつんと建っており所々風化しているがなにやら文字が書いてあった



・ー・ー・ー・ー・ー・ー・・ー・


この先、神の棲まう禁足地為り


諏■大明神御■■尊三■■方尊祭りし場所


けして立ち入るべからず 


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「漢字ばっかりで読めないね」 


「うん・・・」


三雲と雪子が互いに顔を見合わせていると、翔太が声を上げた


「女子達は待ってろ!俺と浩介で探検してくるから!」


「や、やだよ怖いって!!翔太一人でいけよ!」



涙ぐむ浩介を見て翔太は鼻で笑うと三雲の手を掴み



「じゃあ俺と三雲で探検しようぜ!怖くないだろ?」


「うん!平気!ミジャ様に会ってみたいし!」


そう笑えば翔太と共に三雲は中へと進んでいった




薄暗い洞窟は足元が悪く、奥に進むにつれて鉄錆の香りが鼻を突くようになってきた。


頼りになるのは翔太が持ってきた懐中電灯の灯りのみ。


「臭いな、なんか」


「うん・・・・蛙のせいだね」


そんな会話をしながら更に先へ進むと



「なんだ?・・・」


目の前に注連縄のような物が現れたのだった。縄につけられた垂が風も無いのにゆらゆらと揺れている


そして



ーーー ズルっ、ズル、



「!?」


洞窟の中を何かが這いずるような音が聞こえ、先頭に立っていた翔太が懐中電灯の灯りを注連縄の向こうに向けた時



いつからそこに居たのか。裸の男が立っていた



ざんばら髪に、灰色がかった皮膚


なにより


人間の足があるはずのそこには



丸太のように太い蛇の胴体が懐中電灯の灯りに照らされ闇の中から姿を現したのだった



「うわああああああああ!!!!」


関を切ったかのように翔太は叫び声を上げると懐中電灯を捨ててその場から走り去っていく。三雲も逃げようとするが腰が抜けてしまいその場から動けなくなった


「・・・・・・」


ゆっくりと、男が蛇の胴体を引きずり注連縄を越えて三雲に近づいてくる


三雲にはそれがなんなのか直ぐにわかった



ーーーー ミジャ様だ。



約束を破って入ってきたからきっと怒っているのだ


「あ、あぅ・・・あ・・・・」


恐怖から歯がかちかちと鳴り全身の震えが止まらない。


股の間がじわじわと暖かくなってきたが今そんな事を考えている余裕は無かった



「ごめ・・・・ごめん、なさい・・・たべないで、たべないでください」


ぼろぼろと大粒の涙が零れる。



やがて、男が三雲の顔をゆっくりと覗き込み鬼灯のように赤い瞳がこちらを見つめてくる



「ーーーーーー   」



赤い瞳、右顔面に巻かれた布には経文のような物がかいてある


怯える三雲の顔をしばらく見つめていたが男はニィイと不気味な笑みを浮かべ




「あ・・・・・・」



そこで三雲の意識は完全に途切れてしまった







※元ネタは洒落怖です

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