第二十三話:目指すは首都ヴァルハル
ジュラの村にある冒険者ギルド。その2階の一室に三雲達は通された。ソファに腰を下ろすといつのまに用意してきたのかセバスチアンが人数分の紅茶を用意し手渡すとエトワールの側に侍り頭を下げた
「さて・・・・まずは今一度感謝をさせて頂きたい。ミクモ様、お嬢様を御守りしてくれた事誠にありがとうございました。」
「(うっま!!紅茶美味い!!淹れ方プロ並み!)・・・えっ!?あ、いやいやそんなそんな・・寧ろエトワールが私みたいな新参者信じてくれたからですよ」
紅茶を一口飲み、口に広がる風味に舌鼓を打ち三雲はセバスチアンへ照れたように言葉を返した
「さて・・・・〝送還術〟についてでしたな。」
「!・・・そ、そうだった・・・あるんですか?そんな方法」
「はい・・・歴史の闇に葬られた事実でございますが、勇者を哀れに思った六龍神様達が送還術にて元の世界に返したと言う話がブルベールムーンの一族に語り継がれておりますので・・・」
「エトワールの一族って・・・龍神と関係があるんですか?」
「いかにも・・・・ブルベールムーン家先代当主は代々・・・〝暗瞑龍ヴリトラ様に仕える神官の役目〟を仰せつかっておりますからな」
「はぁ!?神官!?」
セバスチアンの口から語られた衝撃の事実に三雲は思わずエトワールを見る。
「え、エトワール!?まさかエトワールも!?」
「うん。まだまだお母様やお祖母様には及ばへんけど・・・自分が果たさなきゃならへん大切なことって言うのはわかっとるつもり。」
幼い容姿ながらも決意の篭もった眼差しを向けられ三雲も真剣な顔つきでセバスチアンの話に耳を傾ける
「ブルベールムーン家の当主は代々、暗瞑龍ヴリトラ様から託宣を授かり・・試練を人々や魔物に授ける手助けをしておりました」
「試練・・・・まぁ、生命の成長の過程には必要なモンだわな」
三雲がそう言うとセバスチアンは苦しげな表情を見せる
「・・・それがあの日、全てが狂いだしたのでございます。」
「あの日?」
「嫁御殿、あのまんじゅう猫が話してた事じゃあないかな」
「あぁ!!女神信仰のやつか!」
三郎の言葉に三雲はキャスパーから聞かされた女神信仰の内容を思い出すが、それを聞いたセバスチアンが少し声を荒げた
「何が女神だ、忌々しい。・・・あのような物、魔術師の言葉を鵜呑みにした愚かな人間共が作り出した偶像にすぎませぬぞ!」
「え?じゃあ槍の話はハッタリ?」
「・・・・ううん。それがそうとも言えへんのよ」
三雲の問いかけにエトワールが変わりに答える
「ひいひいお祖母様の日記にはちゃんと書かれとったんや・・・〝光り輝く聖なる槍を手でヴリトラ様に深手を負わせた〟って」
「それが何なのかは書かれていなかったのかい?」
三郎の言葉にエトワールが首を横に振る
「・・・何の情報も無しや。探りをいれてもアルヴァロン帝国は王都の重要機密を外部に漏らしたことは絶対になかってん・・・それに・・・」
「それに?」
「・・・・何でかわからへんけど、ヴリトラ様の住み家に〝入れんくなった〟んよ」
「入れなくなった?・・・いやいや、だってエトワールの一族は龍神に仕える神官の役目を担ってるんだろ?だったら普通に顔パスみたいな感じでするするーって・・・」
「・・・・結界が張られていたのでございます。」
エトワールの変わりにセバスチアンが三雲に説明をする
「何者かがヴリトラ様が在す闇の霊廟に結界を張り、我々や外部の者が接触できぬようになったのでございます・・・あの日以降、傷を癒やすべく眠りについたヴリトラ様の様子をお嬢様や先代の当主様方が見舞いに向かっておりましたのに・・・それが・・・」
セバスチアンとエトワールが暗い面持ちで語り終えると三雲はぽつりと呟く
「・・・・・妙な力が動いてんな」
「っ!?わ、わかるんか!?ミクモはん!」
「いやいや・・・冷静に考えたら何となく察するモンさ・・・となると・・・直接ヴリトラに会うのは無理か」
腕を組み三雲が何か策は無いかと考えているとガルムが声をかける
「長よ。」
「長はちょっと・・・名前でいいって」
「・・・ミクモ。一度ユグドルの首都に向かってはどうだろうか」
「ユグドルの首都?」
「あぁ。・・・・ヴァルハルにある国立図書館ならばなにか龍神にまつわる文献が見つかるかもしれん。それに・・・運が良ければ〝女王〟に会えるやもしれないからな」
ガルムの言葉にエトワールも声をあげる
「ナイスアイデアやんか!それにユグドルの女王様はお優しい方って有名やし・・・ミクモはんの事助けてくれるかもしれへんね!」
「ガルム、ユグドルの女王ってどんな人?」
「・・・長い年月を生きる樹木霊、ドライアードだ」
「ドライアード!?」
驚く三雲にガルムは語り出した。
ユグドルの首都、ヴァルハル。
自然の要塞と唄われたユグドル大樹海を抜けた先にあるユグドルの首都であり、世界樹の根元に城が建てられているのだそうだ。
女王はかの六龍神の一柱である水龍妃ヴィヴィアーンの盟友であるとされる樹木の精霊、ドライアード。
名をエウリュディケ・ダヌー・アースガルズ。
穏やかで争いを好まぬ彼女の性格がゆえか、建国以来ずっと治世は変わっていないそうだ。
そして、そんな女王を代々守るエルフの名家がダナーン家。
〝女王の矛〟と言う意味のダナーンと言う姓を与えられ代々世界樹と女王を守る役目を担っているのだそうだ
「だが・・・少々揉め事が起きているようでな」
「揉め事?」
「・・・アルヴァロンの徹底的な差別主義に腹を立てた過激派と女王の精神を守ろうとする穏健派が出来てしまっている。」
「あー・・・・・ありがちですわ・・・」
ガルムの言葉に三雲は苦笑いを浮かべまた紅茶を一口啜った
現在のダナーン家は真っ二つに分かれてしまっているのだそうだ。
一つはアルヴァロンの徹底的な差別主義についに腹を立て、こちらも武力行使に出るべきだと動き出した
長男のダグザ・ディ・ダナーン率いる過激派、黒の語り手
もう一つは女王の意思の下話し合いと調和を持って政を行おうと動く
次男のヌアザ・ディ・ダナーン率いる穏健派、緑の紡ぎ手
その二つの派閥の事で少し揉め事が起きているのだとガルムは説明した
「・・・・面倒くさそうだけど・・首都に行ってみるのはアリかもな。」
「いかがするのでありますかな?指揮官殿」
「一度ビャルカンに戻ってから準備を整えてユグドル首都に向かう。なにか手がかりが掴めるなら行ってみなきゃね」
三雲の言葉にギブソンとガルムは頷いた。
次に目指す場所も決まり、今はとりあえず一息吐くかとセバスチアンが用意したクッキーを囓るとふいにエトワールがこちらを見つめてくる
「ところでミクモはん、ちょっと聞きたいんやけど、」
「?」
「どうやってサブロウ様と仲良くなったん?」
にこにこと笑みを浮かべ尋ねるエトワールに三雲はあからさまに嫌そうな顔をして答える
「いやいや!!仲良くないからね!?むしろとり憑かれて散々迷惑してんだからね!?」
「せやけど・・・サブロウ様クラスの龍種様にこんな気に入られてる人ウチ見たこと無いし」
「お嬢様の言うとおりですな・・・私も少々興味がございます。」
「俺も気になるな・・・」
「吾輩もでありますな!」
一同の視線が向けられ、これは話すまで終わらないと察すれば三雲は深いため息をつき頭をかいた
「・・・・・あんまいい話じゃないよ?」
そう前置きをし、三雲は数年前の事を静かに語りはじめた