表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

1.プロローグ

 晴れ渡る空に、赤みがかった飛竜が数頭、翼を広げている。ゆっくりと旋回するその背には、それぞれ一人の女性騎士が騎乗していた。


 ラミッタは青い瞳を輝かせて、その光景を眺める。


「ねぇ、ラミッタ。やっぱり竜騎士っていいよね」


 隣でアルマも気持ちを隠し切れない様子だ。

 二人は竜騎士団の見学に来ている。他にも数人の少女が同じようにまばゆい空を見上げていた。


「うん。憧れるなあ。でも……」


 ラミッタは言葉を濁す。

 両親にはあまりよく思われていない。竜騎士になって竜とともに飛ぶということは、魔物と対峙する危険も伴うことだから。

 アルマも事情を知っているためか、それ以上は口を閉ざした。


 二人の間に沈黙が降りようとしたそのとき、数人の団員の女性たちが揃ってこちらへやってきた。ダークグリーンを基調とし、赤いスカーフのついた制服を着こなした竜騎士たちは、歩く姿も凛としている。

 その先頭を仕切るのは、騎士団長ジェルダだ。

 年は二十代半ばに届きそうなくらいか。燃え立つ炎のような赤い髪に強い光を放つグレーの瞳。鍛えられ均整のとれた肢体で、その表情は竜騎士としての誇りに満ちている。


「やあ、見学ご苦労」


 にこりと笑ってみせる団長に、ラミッタの胸は自然と鼓動が高まる。


「今日はありがとうございます」


 ラミッタもアルマも他の少女たちも見学のお礼を述べた。


「ゆっくり見ていくといい。私たちはいつでも歓迎しているぞ」


 ジェルダは一度咳ばらいをする。


「赤竜ほど素早く飛べる生き物はいない。それを操り一緒に空を飛べるんだ。竜騎士は日々の鍛錬が厳しいと言えば確かにその通りだろう。だが」


 続く竜騎士団長の言葉に、ラミッタは夢心地で聞き入るのだった。




 ここは王国の片隅にある小さな町。

 山裾に広がる豊かな土地は、農作物の栽培や家畜の飼育が盛んだ。その一角に、広大な土地を利用して、赤竜の騎士団があった。


 竜には、大型の黒鉄色の竜と小型の赤銅色の竜の二種類がある。

 大型の竜は、人を数人乗せて飛ぶことができ、森付近で狩りをする際に活躍している。一方、小型の竜は体格のよい男性なら一人乗せるのが限界なので、騎乗者のほとんどが女性だ。

 この地域には後者の竜だけが生息しており、その背に乗る騎士はみな女性だった。


 小型の竜は「赤竜」と呼ばれており、機動力に優れ、町の治安を維持するとともに、害をなす魔物を人々の暮らしから排除する役割を持つ。


 奥深い森には、魔物たちが棲んでいる。魔物とは体内に魔力を宿している獣であり、その能力もさまざまだ。特に有翼の魔物は、上空から町や都市へ入り込み、巧妙に人を騙して食物を奪ったり家畜や人間を襲うこともあった。


 竜は賢くて、人の言葉さえ理解できるという。その竜が吐き出す炎を、大半の魔物はひどく恐れる。

 また、屈強な悪人が現れたとしても、空から鋭い爪や高熱の炎、長くうねる尾で攻撃されるとあれば、ひとたまりもない。

 この王国の竜騎士団の歴史は、まだ数百年程度にすぎない。それでも、人々の集う大きな町や都市において、赤竜と竜騎士は大きく貢献しつつあった。




 ラミッタは今年で十二歳。この小さな町で生まれて、飛翔する竜とその騎士の姿を地上からずっと眺めてきた。

 竜騎士団の見学に来たのは三度目だった。


 町の子どもたちは、みな十歳を過ぎると自分の職業を決めるため、職場の見学をしたり、手伝いをしたりするようになる。仕事は親から受け継ぐことが多いが、自分のやりたいことを探し求めることもあった。


 ラミッタの父親は大きな農場で働いていて、収穫時期は家に帰らないことも多い。ラミッタ自身も、近隣のいくつかの農家の手伝いをするようになっていた。


 けれども、竜騎士に憧れる気持ちがいつも心の底にあって、時たま疼くのだ。



 昨年から見学に行っていることを、両親にも知られている。


「竜騎士なんて、危険だからやめなさい」


 父はそう強く諭す。母にもくどくど言い聞かされる。


「厳しい訓練で大変よ。そんなのにならなくてもいいじゃないの」


 そもそも母はいつでも父の意見に賛成なのだ。


 ラミッタは、考えるより行動するほうが得意だ。例えば、計画を立ててこつこつと積み上げていくのは苦手で、一遍に実行に走ってしまうところがある。

 けれど、将来にわたることだし、両親からこれだけ否定的な意見をもらうことは初めてで、どうしようかと迷っていた。

 それでも、同い年のアルマが竜騎士団への入団を考えているのを聞くと、自分も入りたいと強く望む。



 アルマとは、昨年初めて見学に行ったときに出会い、意気投合した。同じように竜や騎士団に心惹かれている。農作業も少なかった冬場に、互いの家に遊びに行き来するほど親しくなった。

 アルマが次の見学に行くと言えば、自分も行こうと思うものだ。


 さらに、ラミッタは騎士団長のジェルダに憧れている。

 自分自身、目立つので好きになれず短くした赤毛の髪も、団長と同じような色だと思えば、もうちょっと伸ばしてみようかなと思う。

 彼女の言葉にもうっとりしてしまうのだ。


 竜に乗って、空を飛びたい。

 その夢だけは、ラミッタの心からひとときたりとも消えることはないのだった。


第1話をお読みくださって、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
晴れ渡る空に、赤みがかった竜、それを見つめる青い瞳。冒頭の情景から惹きこまれました。 魔物と戦う竜騎士に憧れるラミッタと、その騎士団長を務めるジェルダ、同じ志でラミッタと早くも意気投合したアルマと、…
新連載。ファンタジー。竜。 ありがとうございます。うれしいです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ