チェリーの伝言
漂流者の元気がないようだ。沈んだチェリーが、干からびた梅干しみたいな表情になっていたわ。ええ、勿論ただのわたしの想像よ。辛気臭いの嫌いなのよね、わたし。なによ、沈んでいたって、わたしは空気なんて読まないわよ。
空回りして勘違いして、天然ボケをかますから面白くて好かれるのに。やらかし? そんなものいつもの事じゃないの。
周りの仲間はわかっていて、いつものようにイジリながら激励している。案外人気者なのね、漂流者は。
クヨクヨする暇があるなら、さっさと漂流して来いってことね。素敵な鬼畜仲間を持った漂流者は幸せね。
わたしはチェリーとして、チェリーソーダがおすすめ。チェリーソーダなんて見たことないなんて言うその口は、チェリーの茎の輪で縛って黙らせてあげる。
だけどまあいいわ。同じルビーレッドの仲間として、ストロベリーも認めてあげてもよろしくてよ。
そうね特別に漂流者のチェリーはグラブ・ジャムンにしなさい。氷がわりに凍らせたグラブ・ジャムンをルビーレッドのストロベリー海に沢山沈めてあげる。
しょっぱい梅顔には、甘いアマ〜〜〜い、脳裏まで蜜漬けになるくらいのクリームソーダで頭がクラクラになって飛ぶといいわ。
安心なさい‥‥甘いだけの合法だから。チェイサーがわりに、わたしの浸かっていたチェリー缶の残り汁湯を飲みたいの……?! それでこそ漂流者よ。
どう? 少しは元気になったかしら?
────えっ、身体がだるくて重くて眠い? そんなにたくさん糖分摂れば当たり前じゃない。
それに⋯⋯これは漂流者の見ている願望だもの。好きなだけ甘さに甘えて溺れていいのよ。沈んだチェリーはあなたの代名詞なのでしょう?
あなたを愛する素敵な仲間とわたしがついているのだから、あなたは安心して彷徨ってなさいな。
いつまでも塩に漬かるのが好きというのなら、百年ものの梅干しにでも漂流しなさいな。
────えっ? それもいいかもって?
ほ〜ん、わたしを捨てて他の種に走るとは漂流者のくせにいい度胸ね。それなら漂流者の口に入る梅干し、全てチェリーに変えてあげるわ。二十年もののチェリー缶のシロップで缶臭さを味あわせてもいいわよ?
わたしはあなた愛さない。
でも‥‥あなたはわたしを愛し続ける宿命なの。漂流者だもの。しょっぱい思い出も、苦い記憶もクリームソーダの泡で弾けさせるから。
さあ、クリームソーダのいただきで待っているわ。元気が出たのなら、早く会いにいらっしゃい。
なかなか伝わらなくても、応接していますよ。
梅干しネタは木山花名美さまの「クリームソーダの怨念」からきています。
タイトル変えました。
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