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「いやいや、男女二人きりで遊びに来てたらデートじゃない?」
「そ、そうなのかな?」
友達同士でもデートと呼ぶのかな。まあ、リア充の川口さんが言うのだ。きっと間違いではないはずだ。だけど川口さんの方が僕とデートという言葉嫌がりそうなものだと思うんだけど。
「だから他の女子の話したら駄目。特に越谷さんの話は」
ニッコリ怖い笑顔で詰められているので素直に「はい!!」と元気よく答えた。僕の返答にお気に召した様で優しい笑顔に戻った。正直この違いは生で見ないと分からない雰囲気の違いとしか表しようがない。
「あっ、列も無くなってきたし。覚悟してね」
「げっ、本当だ」
思わずげっと言ってしまった。だって怖いの苦手なんだもの。僕の気持ちとは反対にどんどん自分たちの出番が来てしまう。当然横の川口さんは楽しみなのか凄いウキウキしている。
「よし、レッツゴー!!」
「おー……」
スタッフが案内をしてくれてスタート地点で僕達は並んで待つ。確か、こういうのは前の人がある程度進んでからじゃないと行けない決まりだったような。まあ、進むのが遅い人がいると詰まってしまうのだろう。
「うわ〜、楽しみ〜」
川口さんは滅茶苦茶ウキウキしている。それに引き換え僕は恐らく傍から見たらこの世の終わりのような顔をしていたことだろう。そうして僕達の番になったので案内に従って奥へと進む。
テーマとしては肝試しに来た学生たちが次々行方不明となっている廃病院が舞台となっている。そこで僕達参加者がお化け達から逃げ切って廃病院を脱出するというストーリーらしい。怖い物が苦手な僕からしたらそんな病院最初から入るな!!と言いたい。
「あっ、すご〜い。薬品の匂いとかもしてリアルに出来てるね」
僕の気持ちとは裏腹に川口さんはさっきからはしゃぎまっくている。セットとは言え、暗い病院を歩いているのに本当に怖くないみたいだ。
「ソ、ソウデスネ……」
「いや、何で私の後ろに歩いてるの……。男子でしょ。しっかり」
今どき、そういう男らしいみたい価値観良くないと思います!!と脳内でツッコミながら川口さんの後ろにピタッと付いていってる。こういう所だと背後から襲われたりするのであまり離れないようにしている。
「も〜、怖いなら手繋いであげようか?」
「いえ、某の事は気になさらず」
「え、どうしたの、その口調……」
怖すぎて武士みたいになってしまった。でもいくら怖いものが苦手とはいえ女子に手を引かれて歩くなど僕の男としての最後のプライド(?)が許さない。
「まあ、良いから良いから」
「わっ、ちょっと」
川口さんは僕の腕を強引に引っ張り腕を組んだ。これ手を繋ぐより恥ずかしくないですか!!
「へへ、これなら怖いのもちょっと平気でしょ?」
「へ、へい」
怖いのと女子と腕を組む緊張で更におかしくなってしまう。これではうっかり八兵衛である。
「……、川口さんもしかして僕をからかいたくて、ここに来たとか無いよね?」
「ギクッ」
口で思い切りギクって言ってもうてますやん。まあ、こういうのが好きなのは本当みたいだけど僕を呼んだのはからかって面白がる為らしい。全く、そういうのは感心しませんね。
「……、こうやってくっつけると思って呼んだのにな〜」
「ごめん。今の声が小さくて聞こえなかったよ」
「ああ、良いの。気にしないで」
川口さんは僕の腕を組んだままそっぽを向いてしまう。その時の川口さんの小さな呟きは僕には聞こえなかった。一体、何と言っていたんだろう。




