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「わ、我儘?」
我儘と言っても何時も結構色々言われているのは我儘の内には入らないという事か?え、何時もより何か覚悟しないといけない感じなんですかね……。そして今も僕の手は握られたままである。
「ダメ?」
「い、いつも言う事聞いてると思うんだけど……」
僕がそう答えると手を握る力が強くなる。痛い痛い。川口さんの顔を見ると笑顔でコチラを見ている。これ、ダメそうですね……。
「そういうのじゃなくて」
これ、良いよっていうまで終わらないと理解したので大丈夫と返事をすると手の力が弱まりました。何か最近、越谷さんの影響を受けてきてませんか?
「ていうか、さっさと行こうよ。アトラクションも並ぶんだから」
「ウス」
ふざけた返事をしたらまた力込められました。とふざけながら歩いていると小さい病院の入口を模した建物が見えた。なるほど、病院がテーマのお化け屋敷か。中々強そうだ。
「お、面白そうだね」
「いや、春日部君、足震えてるけど」
僕の足を指さしている。つられて見てみるとガタガタと地震が起きているのかと間違うくらい僕の膝が揺れている。全然強がれていないじゃないか。
「恥ずかしい……」
「まあ、お化け怖いっていう男子も多いし普通普通」
え〜、川口さん台詞がイケメン過ぎる。というか相変わらず僕は情けないなあ。まあ彼女はわざわざこういう所来たいっていうくらいだし好きなのだろう。僕達は列に並んでお化け屋敷に入る時間を待つ。
「待ち時間もあることだし。聞きたい事が」
「な、何かな」
「昨日、本庄君と一緒に帰ったので言えない事って何かなって」
やはり昨日のことを聞いてきたか。答えられないと伝えたがそれでは納得出来ないのだろう。そりゃ皆に聞いてきて欲しいと頼まれてるのだ。何もなかったではだめか。
「まあ、その様子だと何となく分かるよ」
「え?」
「本庄君の好きな人、入間さんじゃなくて別にいるんでしょ?」
まあ、僕の反応で想像できるか。いなければ、いないと答えるだけでいいのに。それに僕の反応が芳しくないから推察された。
「それを入間さんに伝えるのは残酷かなって……」
「でも入間さんも分かってる感じだし。春日部君が気を揉むこと無いと思うよ」
それは分かっている。事実を言った所で入間さんが僕を責める事は絶対にない。本庄君に好きな人がいることもうっすら感じていた事も。だがそれでも優しい入間さんが傷付くのを見たくないという僕のエゴだ。
「悲しそうな顔してる」
「え」
「私と一緒にいるのが楽しくないのかな〜」
川口さんはう〜んと伸びをして呟く。僕は一瞬ポカンとしてしまった。
「そんな事ない!!」
「うわ、ビックリした」
少し大きな声になってしまったみたいだ。川口さんはビクッと肩を揺らして驚いていた。ごめんと一言謝る。
「川口さんと一緒でつまんない訳ないよ」
「フフッ、そう?」
川口さんは僕の顔を覗き込む。至近距離で川口さんの顔があるので今度は僕がびっくりしてしまった。その様子を見て川口さんはクスクス笑っている。
「まあ、デートに来て暗い話するもんじゃないよね」
「そうだね……、うん?デート?」
「え?」
「え?」
僕は単語に引っかかる。え、これデートなの?友達同士で遊びに来たのではなく?僕達はお互いに頭にはてなマークを浮かべて二人で見つめ合う。




