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「な、何があったの?」
僕達が昼休み、教室にいない間に何が起きたというのだろうか。僕達は並んで歩きながら会話をする。
「いや、俺は普通に小川とかと飯食ってたんだけどさ」
「うん」
本庄君はクラスでは小川君や運動部の生徒達の所謂、クラスの中心であるグループに所属している。昼食もそのメンツで集まっている。
「いや、なんて言えば良いのか分からねえけど。遊んで仲良くなったのはいいんだけどやたら距離近い?というか」
そんな事を話しているとお目当ての喫茶店に着いたのでこの先はテーブルにて話すという事になった。喫茶店の中は木目調の落ち着いた雰囲気だ。ジャズだろうか心地の良いBGMが流れている。
「じゃあ、暑いしアイスコーヒーで。春日部もそれでいいか?」
「大丈夫」
本庄君は店員さんを呼んで二人分のコーヒーを注文した。周りを軽く見ても同じ東南学園の生徒は見当たらない。まあ、落ち着いた雰囲気であまり高校生が来るような喫茶店ではないのかもしれない。
「で話の続きなんだが、俺達が飯食ってる時に坂戸が一緒に飯食いたいって言い出してさ」
「うん」
坂戸さんからしたら学校でも距離を縮めたいに違いない。それで昼休みも一緒にいたいと言い出したんだろう。
「でも俺って男友達と飯食ってるじゃんか。そこに女子って何か変な感じになると思うし。かといって断るのも悪いじゃんか」
本庄君は人気者だし女子とも話はするがあまり一緒にいる感じではない。曰く、男友達の方が気一緒にいて気楽らしい。その気持は分かるというか最近、僕の周りが女子ばかりなので首をヘドバンの勢いでウンウン頷いた。
「小川はアホだから女子だ〜ってはしゃいでたけどよ」
「ああ……」
小川君、相変わらず無類の女性好きのようだ。合宿で仲良くなったとはいえ所属するグループは違うのでそこまで話は出来ていない。というか越谷さんが僕を逃がしてくれません。
「ただ、新座や日高に悪いと思ってまた今度って断ったらさ……」
「……、何かあったの?」
本庄君はガクッと頭を落としている。ちなみに新座君と日高君というのは1−Aの本庄君の友達の事である。それにしても一体何が合ったというのだろう。
「なんか、その二人に『私がいると邪魔かな?』って言い出してさ……」
「ああ……」
なるほど、一緒にご飯を食べる為に他の男子に圧をかけたという訳か。坂戸さん、流石女帝と呼ばれるだけの気の強さである。
「それ聞いた二人がビビっちまってさ。俺は当然そういうの止めてくれって頼んだんだら、坂戸が泣き出しちゃって……」
つまり、無理やり昼を一緒にしようと圧をかけた事を本庄君に咎められて坂戸さんが泣いてしまい、それを必死に謝ったため、結局男子グループと一緒に昼休みを過ごしたという事らしいのだ。内心、坂戸さんがそんな事で泣くとは思えないから一緒にいるために一芝居打ったのだろう。
「俺だって坂戸を邪険に扱いたい訳じゃないけど、どうすればいいと思う?」
「え、それを僕に相談するの?」
大変、失礼なのですが女子達にひたすら尻に敷かれてもはや敷き布団となってる僕に相談するのは間違っているんじゃないでしょうか。
「いや、でもお前、女子と一緒にいる機会多いじゃんか。それで上手くいくコツみたいなのあればと思って」
「う、う〜ん」
まあ、確かに気の強さだけ言えば、坂戸さんも越谷さんも似た所はある。(当然、そんな事を悟られれば僕の脳天は割れる)でも言い方は悪いかもしれないが坂戸さんはそこから更に自分の思うように進めようと画策する悪意みたいなのが垣間見える。僕達は二人でう〜んと悩むのだった。
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