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「ええっ、僕が!?」
急に僕に振られて驚いてしまう。僕が本庄君の好きな人の情報を聞き出して来いというのは無茶振りなのでは……。
「男子同士なら聞きやすいでしょ」
「頑張れ、春日部!!」
女子達は盛り上がっている。だが肝心の入間さんがどうしたいかと思うのだが先程から黙っている。何も言わないのはやはり入間さんも気になっているが流石に僕に働かせるのは気が引けると行った所だろうか。
「……、でも教えてくれるか分からないし、嫌がるかも」
「それだったらそれでしょうがないし聞くだけ聞いてみてよ〜」
川口さんがお願いと手を合わせてお願いしてくる。川口さんに頼まれるのは正直悪い気がしないけども……。入間さんの方を見る。全ては彼女がどうしたいかによるだろう。
「私も気になる……。今まで勇気が出せずにいたけど……」
入間さんが下を見ながらぎゅっと唇を噛んでいる。彼女にも決意があるようだ。その様子を見て他の二人からお前分かってるだろうなと目で促される。
「……分かった。聞くだけ聞いてみるよ。あまり期待しないでね」
「ごめんね、ありがとう……」
こんなにシュンとした入間さんは合宿の登山以来だ。やはり本庄君の気持ちを知るのは怖いのだろう。今までも本庄君の事を好きな女子は多かったというが、坂戸さんという強力なライバルまで現れているのだ無理も無い。
「春日部君、上手く行ったらアイスでも食べに行こうよ。美味しいお店出来たって有名なんだ」
「川口さん、さらっとデートに誘うの止めてくれません?」
「ふふっ」
何故か川口さんには頭の上がらない越谷さんが弱々しいツッコミを入れる。それを聞いた入間さんが笑ってくれた。良かった、何時もの明るい彼女でいてほしい。
「上手くいかなかったとしても私が奢るよ。ここにいる皆で女子会だ!!」
「いいね〜」
「いや、僕男なんですけど」
と最後には明るい感じで昼休みは過ぎていった。ちなみに周囲の男子からは「なんだ、アイツハーレム気取りかよ」などとやっかみを入れられていたのは気にしない事とする。
昼休みの後、午後の授業も終わり放課後になった時にそれは起こった。
「春日部、ちょっと良いか?」
件の本庄君から僕に話しかけてきたのだ。内心、これはチャンスかもしれないと思いつつ先に要件を聞こうと本庄君の話を待つ。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと、今日お前だけで話したいんだがこの後大丈夫か?」
「うん、今日も委員会無いはずだから大丈夫だよ」
何処か本庄君がソワソワしている気がする。それに二人で話がしたいというのも珍しい。と前方から視線を感じた。気になったのでその方向を見ると坂戸さんがこちらを観察しているようだ。本庄君の様子を伺っているのだろうか。
「春日部、そっちあんまり見るな」
「へ?」
コソコソっと小さな声で僕に囁く。あまり聞かれたくないのだろうか。気の所為じゃなければ坂戸さんの事を避けているのか。僕は何となくの意図を察して二人でコソコソと教室の外へ出た。
「悪いな。じゃあ何処か喫茶店とかファミレスか行くけど良いか?」
「大丈夫だけど……、事情を聞いても?」
「いや、校内だとちょっと。後で話す」
と言うので僕は黙って後をついていく。正直、僕も二人で話したいと思っていたので好都合ではある。学校から十分程歩いた所に静かな喫茶店があるというので二人で並んで歩く。
「周り、誰もいないな」
「何か、あったの?」
やたらと周囲を確認していた本庄君は近くに同じ生徒がいないことを確認してため息をついた。
「いや、お前ら昼休みいなかったろ」
「うん。え、何かあったの?」
「それがな、何か坂戸が一緒にご飯食べようって言ってきて」
どうやら僕達が学食に行った間、本庄君は坂戸さんから一緒に昼食を取らないかと誘われていたようだ。だが、それで何か問題でも起きたんだろうか。
「やっぱ、何かアイツ、怖い気がするんだよな……」