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翌日、僕は憂鬱ながら登校する。何故憂鬱なのかと言われると当然、入間さんに問い詰められる事が確定しているからだ。通学路をため息をつきながら歩く。すると肩をポンポンと叩かれる。後ろを振り返るとそこには本庄君が立っていた。
「おう、何かため息ついてたけどどうしたんだ?」
「い、いやあ……」
まさか君の女性関係についてですとは言えないので苦笑いで濁す。それを不思議に思ったのか本庄君は首を傾げて「ふ〜ん」と流した。
「そういえば、あの後、坂戸さんと買い物どうだった?」
「いや〜、一緒に行ったはいいけどさ、俺女子の服とかアクセサリーとか分からんから取り敢えず赤べこみたいにウンウン頷いてたわ」
「な、なるほど〜」
確かに一軍女子である坂戸さんの事だ。ショッピングが好きなのだろうけど、そもそも男子は服装やアクセサリーに興味がない人も多い。僕や本庄君なんかはそのタイプなのだろう。ただ、本庄君は僕とは違い、交友関係が広い。そのため女子と遊ぶこともあるから困らないのかなと少しだけ思った。
「でも坂戸さん喜んでたでしょ?」
「そうだと良いんだけどな」
以前は坂戸さんの事を苦手と言っていたが本当に仲良くなってきたみたいだ。それ自体は良いことなのだがこれからそれを入間さん、(と恐らくついてくる越谷さん)に詰められる事を思い出して猫ミームのように頭を抱える。その後は世間話をして教室まで一緒に行った。
「あ、二人ともおはよ〜」
僕達のクラスに着いた途端、声をかけられる。その声の主は入間さんだった。何故Bクラスの入間さんがここにいるんだろうと思ったら理由はすぐに分かった。横で越谷さんが座っているからだ。二人で話をしていたのだろう。越谷さんは何故か机に突っ伏しているけど……。
「おお、遥香、珍しいな。Aクラスにいるなんて」
「うん、瑠衣と話があったから」
そういうと机に突っ伏している越谷さんがビクッと揺れた気がした。体調でも悪いんだろうか。
「じゃあ、春日部君と瑠衣はまた昼休みの時に聞かせてね〜」
入間さんはそういうと手を振って自分のクラスに戻ってしまった。本庄君は自分の席の方に戻って僕は席について一時間目の準備をする。
「アンタのせいだからね……」
何か呪詛のような言葉が聞こえてくる気がするが気のせいだろうか。もうすっかり夏だし幽霊の季節といっても過言ではない。帰りにお守りでも買っていったほうがいいだろうか。
「無視するな……」
「はい……」
呪詛を吐いていた越谷さんの方を向くと突っ伏しながらこちらを睨んでいた。怖い怖い、頭の影に隠れて目だけが光ってこちらを見ている。幽霊よりも怖い存在だ。
「越谷さん、怖いよ。……でどのような話をされていたんでしょうか」
「フン、昨日楽しかった〜?って笑顔で楽しそうに聞かれた……」
それで越谷さん突っ伏していたのか。ただ入間さんはあまり怒るようなタイプではないので笑顔で詰められたんだろうなあと思って越谷さんに向かって合掌する。当然、僕は脳天チョップを食らう。
「まあ昨日連絡あったから覚悟はしてたけど……」
「……、連絡って何?」
入間さんから昨晩、本庄君が坂戸さんと一緒にいるのを見た件について次の日聞くという連絡を受けた事を報告する。
「な、何でそれを早く言わないの……」
「まあ、僕だけに事情聞かれるのかなあと思ったし」
越谷さんはまた僕に脳天チョップを食らわせた後また机に突っ伏してしまった。




