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何分話していただろう。僕が長い時間話している間、ずっと黙ってきいてくれていた。越谷さんにこんな話を聞かせたい訳ではなかったはずなのに全部話してしまった。
「……なるほどね」
僕が話し終えると、越谷さんはやっと声を発した。ずっとソファーで座りながら僕の顔を見ていてので疲れたのだろう。越谷さんは大きく伸びをした。
「なんでそれをアンタが気にしてるの?」
「へ?」
まさか僕が話した内容を聞いてそんな感想が出てくると思わず素っ頓狂な声を出してしまう。越谷さんは呆れた様な顔で僕を見つめている。
「だってそうでしょ。性悪女と結局付き合わなかったんだからラッキーじゃん」
「ええ……」
いくら何でもポジティブ過ぎやしないかと思って僕は驚いているが、越谷さんは構わず話を続ける。ふと外を見ると時間が経っているからかすっかり暗くなっていた。
「それに加須……だっけ?好きな女を他人が振ったくらいで殴る男もやばいでしょ」
「ま、まあ、それは……」
次々に辛辣な感想のボールをガンガン投げてきて僕はタジタジになる。
「そしてアンタも!!」
「え、僕も?」
「そんな事くらいでバレー部辞めんのも情けない!!」
まさか僕まで非難されるとは予想していなかった。別に同情して欲しかった訳ではないがそんな感想を抱くのかとただただ驚いているだけである。好き放題言って満足したからかコップに入っていたお茶を一気飲みしていた。僕はその様子をただポカーンと見ていた。
「まあ、それがアンタにとって辛かったっていうのは可哀想ではあるけどさ」
言いたいことを言い切ったからか急に優しくなったな。テレビで見たDV彼氏みたいだと大変失礼な事が頭に浮かんでしまった。
「まあ、それだけアンタが人と関わってこなかったってことね……」
と思ったらまた辛辣な言葉を投げかけてくれる。これが飴と鞭か……。
「まあ、それにどうやらその出来事がある前から陰気な性格だったみたいだし」
「うっ」
それはそうなのだが仮にも辛い過去を話した後なので優しくしてほしいなと心の中で思うばかりだ。
「あ〜あ、私から告白して強引に押せば付き合えるかと思ってたけど」
「ええ……」
確かに過去の話をするきっかけだったけど、そんな事考えていたのか。まあ越谷さんから付き合いなさいと言われればノーと言えなかったかもしれない。我ながら情けなさすぎる話である。
「やめた。アンタから付き合いたいって言うまで待つことにする!!」
「えっ」
まさかの宣言である。一瞬二人の間で時が止まったかのような感覚に陥る。
「私からすればあれでも、アンタにとって辛いトラウマなんでしょ?だったらそんなトラウマがあっても私と付き合いたいと思わせれば良いかなって」
「越谷さん……」
格好良い宣言だ。僕は過去の事でウジウジして越谷さんに心配までさせて……。人間としての器の差にやはり落ち込む。
「……やっぱり越谷さんに聞きたい事があるんだ」
「何?」
「何でそんな越谷さんが僕みたいな陰気な奴の事が好きなのか分からないんだ。美人だし、性格だって優しいし僕と釣り合ってないよ」
心からの本心だった。越谷さんにはそれこそ本庄君みたいな素敵な男性が合っていると思ったからこその言葉だった。
「アンタさあ……」
僕がそう聞くとまた呆れたような顔をしていた。ハアとため息をついて天井を見上げてしまった。そういえば出会った頃からずっと呆れさせぱなしである。
「アンタは釣り合ってるとか釣り合ってないとかで人と仲良くする人を選ぶの?」
「い、いや、そんな事しないよ」
「それと同じだよ。私と合ってるとかそんな事で決めてない」
「……」
「私は私が好きだと思った人と一緒になりたいから」




