78 過去編5
「僕と一緒にいたい?」
内心では分かっている。これはもしかしたら告白されているのではないかという事に。現実逃避だろうか心臓の鼓動が激しく鳴っているのがうるさい。
「ねえ、春日部君はどう思ってるの?」
「……、何で僕と一緒にいたいの?」
緊張で上手く声が出ないので絞り出すような小さな声になっていたと思う。三郷さんはそれを聞いてう〜んと唸っている。
「それを女子の口から言わせるの?」
「……、本当に気になったから。僕の何処が気になったのか」
情けない話だが、接点といえば部活で多少やり取りがあったくらいでどこで僕に好意を寄せるようになったのか本当に分からなかった。失礼を承知で問いかけるしかなかった。
「う〜ん、頭が良くて、バレーも上手くて格好良く見えたから……じゃ駄目かな?」
「……いや、駄目なんかじゃないよ」
僕は周囲の人達の気持ち、ましてや女子の気持ちなんて深く考えた事なんて無かった。それはそうだ、僕は友達と呼べる人がいなかったのだから。
「……、それで春日部君はどう?」
「僕?」
「私の事、どう思っているか。私が伝えたんだから春日部君も答えて欲しいな」
「……」
僕の希薄な人生経験ではここで何と答えれば良いのか分からない。おそらく他の人たちも正解なんて分からない。学校の勉強のように絶対に正しい答えなど存在しないのだから。
でも答えなければならない。勇気を出して伝えてくれた三郷さん、それに自分の為にも答える。
「……、正直分からないんだ」
「分からない?」
三郷さんは首を傾げて不満そうな顔をする。それはそうだ。実質的な告白に対して分からないと答えられたのだ。
「……ただ、分からないこそ君に答えなきゃいけないんだと思う」
「うん」
三郷さんは下を向いて返事を待っている。その表情は見えなかったが伝える。
「こんな中途半端な気持ちでは三郷さんの気持ちに答えられない……だから……」
「分かったよ」
最後まで伝えられなかったが、何を言うのか察したのだろう。三郷さんはくるっと後ろを向いた。僕の顔を見たくなかったのだろう。
「……私、ここで帰るね……」
「……うん」
三郷さんは走って去ってしまった。僕は彼女の姿が見えなくなるまでその場で立ち尽くしていた。
そこからどうやって家に帰ったかは覚えていない。決まった道をただ歩いてきたのだろう。良く無事で自宅までたどり着けたものである。夜ご飯を食べて、風呂に入って布団に入る時まで先程の光景が脳内で映し続けている。
人生で始めて告白というものをされた。昔から大人しい性格で男友達は何人書いた気がするがそれもかなり前の話で女子の知り合いなどいないに等しかったからだ。そんな事を考えていると不思議な事に興奮しているのにスッと眠れた。
行きたくなくても学校はある。いつもの時間に起きてしまった僕は登校の準備をする。三郷さんと気まずいからといって授業をサボる訳にはいかない。ため息をつきながら学校へ向かった。
その後自分のクラスへ着いた。すると何人かの生徒が一斉に僕の方を見てきた気がした。自意識過剰だろうか……、いや僕がクラスに入った瞬間に話を止めて僕の方を見ている。何があったんだ。
「おい」
その様子を見て呆けていると、加須君が目の前にいた。周囲を見ていたから全然気付かなかった。
「ちょっと話いいか?」
「え、う、うん」
僕が答えると加須君は教室を出ていく。付いてこいという事かと理解して後を追う。少し歩いて階段横のデッドスペースまで来た。
「お前さ」
「うん」
「三郷の告白断ったんだって?」
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不穏!!




