77 過去編4
騒々しい昼休憩後、五、六時限目を終えると放課後になった。今まではキツイ練習だけが憂鬱だったのだがここの所、三郷さんがやたら僕に構ってくるのも二重で疲れる。体育館に向かうために立ち上がって前の方の席を見ても加須君の姿が見当たらない。先に向かったのだろう。
「ハア……」
「あっ、春日部く〜ん!!」
教室のドアの方を見ると三郷さんがブンブン手を振って僕を呼んでいる。さあ、覚悟を決めて行かなきゃ。僕達は二人並んで体育館に向かった。
体育館で僕は着替えをする為、三郷さんと別れ男子更衣室に行くと、加須君が着替えをしている途中だった。
「……おう。三郷と随分仲がよろしいようで」
一緒に体育館に行く所を見られたのだろうか。加須君がいつもより感じが悪いというかピリッとした雰囲気を感じる。僕には恋愛的な事はあまり分からないが加須くんとしては僕と三郷さんが仲良くしているのが気に食わないのだろうか。
「そんな事ない……。彼女は僕でからかってるだけじゃないかな」
「はっ、そんな風には見えないけどな」
僕と加須君はそこまで仲が良い訳ではなかったがこんな風になったことがない。いや、今まで距離が遠いからこそ諍いがなかったのだろう。そんな事を考えていると加須君は着替え終わったのか先に更衣室から出てしまう。
僕も着替えを終えて更衣室から出る。周りを見ると他の部員達は大体揃っていたので練習が始まるようだ。
「はい、春日部君、水分補給!!」
休憩時間になった時、三郷さんは笑顔で真っ先に僕の所にスクイズボトルを持ってくる。
「い、いや、僕は良いから。先に皆の分を」
「いやいや、エースなんだから先に飲みなよ〜」
僕は断りきれずにボトルを受け取り水を飲む。その時、周囲を見ると僕と三郷さんの様子を見て怪訝な顔をされている。部活中にチャラチャラするなということだろう。ただでさえ部活でピリピリしているのにそんな物を見せるなということか。
「はあ……」
僕はため息をつきながらこの事を三郷さんに上手く伝えないといけないなあと気が重くなる。そんな時、加須君と目が合ったが加須君から目をそらされてしまった。そんな事もあったが無事、部活が終わった。
「よし、来週から期末試験だから明日から部活休みになる。だが個人個人で体は動かしておけよ」
部活終わりの挨拶で顧問の先生から告げられる。そういえばテスト期間になるから部活無いんだ。その事実は僕をホッとさせた。今日のような雰囲気で部活が嫌だからだ。それにテストが終われば三郷さんにからかわれることもなくなるだろう。
部員たちは更衣室で制服に着替え直し先に体育館を出ていく。僕は鍵締めのため皆が帰るのを確認して更衣室と体育館の戸締まりをした後、鍵を顧問に返し校舎を出る。
「おつかれ〜」
「三郷さん……」
昨日と同じく校門で三郷さんが待っていた。薄々そんな気はしていたが本音を言えば一人で帰りたかったなと考えていた。
「ね〜、この後、何処で勉強する?」
「い、いや、明日から部活休みなんだから明日から勉強会すれば良いんじゃないかな?」
今日は疲れたから解散しようと提案する。色々な意味で疲れたのは本当だった。
「……、あのさ」
「え?」
三郷さんは急に下を向いてしまった。どうしたというのだろう。
「勉強会なんて方便だって分からないかな?」
「……どういう事かな?」
僕は本当に分からないと尋ねる。
「だから……、君と一緒にいたいっていう方便だってこと」
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不穏




