76 過去編3
「春日部君って勉強も得意なんでしょ?」
「いや、得意という程では無いと思うんだけど」
三郷さんが構わず捲し立てる。今度は何を言いたいんだろうか。
「え〜、嘘だ〜。成績良いし、偏差値高い高校狙ってるんでしょ?」
「い、いやあ」
僕が受けようと思っている高校の事なんて人にあまり話していないはずだ。何故なら友達がいないからという悲しい理由からだけども。いや、以前、加須君に話した記憶がある。部活の休憩時間にふと聞かれたんだ。
「それで〜、私、あんまり成績良くないし勉強教えて欲しいな〜って」
「ええ、僕が!?」
「今度期末テストあるんだし少しでも内申良くしないとなの。お願い!!」
三郷さんは手を合わせてお願いされる。こうなると陰キャの僕には断り辛い。
「わ、分かった。期末テスト対策は協力するよ。ただそれが終わったら本格的な受験勉強に入るからそれまで……」
僕がそう返事すると三郷さんはパアッと笑顔になり僕の手を取った。
「うぇ!?」
あまりに急な出来事で変な声をあげてしまった。その様子を見て三郷さんはフフッと笑った。
「じゃあ、お願いね」
そういうと三郷さんはピューッと自分のクラスに戻ったのか部屋から出てしまった。嵐のような出来事に僕は唖然としていると教壇の方から加須君が僕のもとへ寄ってきた。
「災難だったな。まあ、アイツ、馬鹿だから付き合ってやってくれ」
「加須君……、良ければなんだけど加須君にも協力のお願い出来ないかな……」
「俺?いやいや、勉強得意じゃないし。逆にお前の生徒が一人増えるだけだぞ」
そう言われると弱る。僕と三郷さんの二人で勉強を教えないといけないという事か。今はまだ部活もあるしその後、勉強を教えるとなると結構負担になる。あそこで断る事が出来なかった僕が悪いのだが。
「まあ、頑張れよ」
そう話す加須君は何処か楽しそうに見えたのは僕の心が弱っているからだろうか。周囲を見るとチラチラこちらを伺っている様子だ。僕はどっと疲れて机に突っ伏した。
放課後になって部活の時間がやってきた。大会前の練習とあってかなり激しいメニューとなっている。部員たちはぜえはあと息絶えだえになっている。
「お〜し、十分休憩!!」
顧問が叫ぶと僕達は体育館の壁際にもたれ掛かる様に座って息を整える。
「春日部、こんな練習の後、お姫様の相手するの大変だなww」
「加須君……、まあどっちにしろ勉強しなきゃだし……」
加須君が水を飲みながら僕の近くまでやってきた。練習で疲れてるのにからかってくるなんて随分体力があるようだ。
「え、お前部活後、勉強するのか。凄いな」
「いや、テスト前だし、それに受験生だしね」
「凄いな。まあ、俺にとっては大会がテストみたいなもんだからな」
スポーツ推薦を狙っている加須君にとっては大会の結果、それに自分のパフォーマンスがより良い高校に進むための試験みたいなものだ。彼も並々ならぬ思いがあるのだろう。
「だからお前の活躍が大いに関わってくる訳だ。乳繰り合うのはいいけど大会頼むぜ」
「乳繰り合うだなんて僕はそんなつもりじゃ……」
「半分冗談だ。だけどアイツ可愛いじゃん。付き合いたいと思わねえの?」
加須君の顔を見ると真剣な顔をしている。まあ、確かに三郷さんは可愛いけど僕とはタイプが違うからそういう感じじゃない気がしていた。ただ女の子にビビっているだけかもしれないが。
「僕はそんなつもりないよ」
「ふ〜ん……」
何処か含みのある相槌だった。
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