74 過去編1
あれは中三の夏だった。その時、中学最後の大会を前にバレー部員として体育館で汗を流していた。
「春日部、いよいよ来月だな」
「加須君……」
休憩時間の時、座って休んでいる僕に話しかけてきた彼は加須明、僕と同じバレー部員で三年間一緒に頑張ってきた仲だ。思えば彼と僕は同じくらいの実力だったのでお互いを高めるために切磋琢磨してきた。
「お前は大会で引退だろ。一緒にやるのは来月までってことになるな」
「うん……」
僕は流れてくる汗をタオルで吹きながら返事をする。中学でバレーを辞めるつもりだが、加須君はスポーツ推薦で高校へ進学する予定なので卒業近くまで部活に参加するらしいというのは聞いたことがあった。
「でも勿体ないよな。お前が実質このチームのエースだろ。それで高校ではバレー続けるつもりないんだろ?」
「うん……」
彼には話していなかったが僕は元々、本を読んで大人しくしているのが肌にあっていたので高校で入るとしても文化部だろうと思っていた。それに僕は受験で高校へ進学するつもりだったので早く引退して受験勉強をしたいというのもある。
「私は高校でもバレー続けなって言ったんだよ?」
横からマネージャーの三郷さんが話に入ってきた。男子バレー部、唯一のマネージャーでかなりの美人という事もあって部員達のマドンナ扱いだ。
「いやあ、でも高校ってかなりレベル高いだろうしどっちにしろ付いていけないんじゃないかな……」
「でた、マイナス思考!!うちでエースなんだからよっぽどの強豪校じゃなきゃスタメンで出れるでしょ」
僕はそんな事無いとブンブン手を振って否定する。そんな様子を見て二人はクスッと笑っていた。
「はい、次ブロック練習やるぞ〜」
顧問の先生が号令をかける。話をしていたら休憩時間が終わり次の練習が始まるようだ。僕達は立ち上がり顧問の所まで駆け寄った。
一時間後、練習が終わって更衣室で制服に着替える。汗臭いので早く帰りたいなあと考えながら帰る支度を進める。
「おっしゃ、一緒に帰ろうぜ〜」
「おお、コンビニでなんか買って帰ろうぜ」
他の部員達は仲の良い人達で固まって帰るようだ。僕はというと精神が陰キャなので三年になってもそこまで仲の良い人がいないという体たらくであった。そんな中でも加須君は数少ない話の出来る部員だったが、一緒に帰ったり遊んだりということは一度もない。
僕は更衣室、体育館の鍵を閉めて教員室に鍵を返して学校へ出る。当然、他の部員は帰ってるので一人で帰ることになる慣れたものとはいえ暗くなってきた道を一人で帰るというのも気分の良いものではない。
「ハア、疲れたな」
「あっ、やっと来た」
校門を出た所で声をかけられる。声の方を見ると三郷さんが立っていた。校門に寄りかかっていたのか背中を軽くはたきながら僕の所まで歩いてきた。
「三郷さん、どうしたの?」
「春日部君を待ってたの」
「え?」
僕を待っていた。意味が分からず首を傾げる。外は大分暗くなってきていてカラスの鳴き声がガアガアと響いていた。
「ハア、まあ春日部君だし、分からないよね。まあいいや、一緒に帰ろう?」
「う、うん」
よく分からないが一緒に帰ろうと誘われて断る理由もないので承諾する。二人並んで下校する。この学校に通って三年目になるが女子と一緒に帰るという経験はこれが初めてだった。