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 結局、バスの前の方で越谷さんと並んで座っている。正直、男女で並んで座っているのはクラス内のカップルくらいで殆ど男子同士、女子同士で座っている為、クラスでも珍しい存在となってしまっている。


 「あんた、バス酔い大丈夫?」


 僕が席で悩んでいると越谷さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。


 「無問題モーマンタイ


 「何で急に中国語になんのよ」


 僕はグッとサムズアップする。越谷さんはハアとため息をつく。僕は何度越谷さんに呆れられるんだ。


 「まあ、酔い止めの薬はしっかり飲んできたから」


 僕は自慢の薬ポーチを見せる。中にはぎっしり色々な薬が入っている。


 「薬多すぎない?持病でもあんの?」


 「持病は無いよ、これが酔い止め、これが鎮痛剤、これが風邪薬、あとは……」


 「もう分かった……」


 越谷さんはまた呆れて窓の外を眺めてしまった。まあ、結構長い時間バスに乗るっていう事だし次の休憩所まで寝ようかな。僕も高校初の宿泊合宿という事で緊張して上手く寝れなかったし。僕は徐々に意識が薄くなっていくのを感じてしばらくして眠った。


 

 カシャッ、カメラのシャッター音で目が覚める。何だと目を開けるとスマホが僕の目の前に超至近距離であった。

 

 「うわっ」


 「あ、やば」


 隣の席の越谷さんが慌ててスマホをしまう。いや、それ遅すぎるからね。ていうか、僕の寝顔撮られていたのか。


 「越谷さん」


 「はい」


 「寝顔、撮ったよね。削除してもらえる?」


 「さ、さあ、何のことでしょうか?」


 動揺して口調がおかしくなってるじゃないか。僕は彼女のスマホを取ろうと前かがみになる。越谷さんは嫌がって身構える。


 「い、いや、ダメだって!!」


 「素直に消してくれれば、僕もこんな事しないよ」


 「い、いや~」


 「寝顔撮って人の事バカにするなんて悪趣味だよ!!」


 「は?そんな事しないけど」


 うわあ!いきなり落ち着くな!って何で越谷さんが怒るんだ!?


 「バカにしたりしない」


 「いや、怒った感じ出して誤魔化そうとしても無駄。消して」


 「やだ~」


 いつもより更に強情だな。だけどいつもならともかく今回は僕も折れないぞ。


 「越谷さん、あのさ……」


 「うん」


 「例えばだよ。僕が越谷さんの寝顔を隠し撮りしていたらどう思う?」


 「堂々と撮りたいって言えって怒る」


 何か、想定していた返答じゃないな。僕が寝顔撮りたいって言ったら撮らせてくれるって事?いや、実際に言ったら何言ってんの?って絶対断る癖に……。


 「まあ、兎に角僕はあまりいい気がしないので消してもらえない?」


 「……どうしてもダメ?」


 うわっ、可愛い顔で僕を見つめるな。それ卑怯でしょうに。もうここまで言ったらダメなら仕方ないか……。


 「はあ、分かったよ。それ絶対他の人に見せたりしないでね」


 「当たり前じゃん」


 いや、そこで勝ち誇られても困るんですけど。僕は諦めて大人しくすることにする。ふとバスの反対側の席を見るとクラスの女子がこいつ等何やってるんだという困惑した顔でこちらを見ていた。視線に気付いた瞬間に恥ずかしいので越谷さんの方を見ると、スマホを見て嬉しそうにしている。そんなに僕の痴態を見て面白いですかね……。


 「おい、春日部、越谷」


 前方にいる上尾先生から名前を呼ばれる。あ、やばい。


 「お前ら、楽しみなのは分かるがもう少し大人しくしろ」


 そういうとクラスの女子達からクスクスと笑われてしまう。僕達は到着するまで顔を赤くして黙って座っていた。

もしよろしければブクマや☆、いいね、感想いただけると幸いです。


30万PVありがとうございます。

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