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「……」
僕は何と返事をすればいいのか分からず黙り込んでしまう。本庄君はどうやら昔お世話になったお姉さんが忘れらなくて、しかもその女性らしき人と再会したと素直に話してしまっていいのか。川口さんは正直に話すしかないじゃないと言われ、越谷さんからは正直に話すべきではないと言われている。どうすればいいんだ。
「私には言えない感じなのかな?」
僕が黙っているからか入間さんは私の顔を見つめながら尋ねてくる。僕は入間さんの顔を見る事が出来ない。この場所は他の生徒が来る事も無いし、越谷さんと川口さんは何か話しがあるとかでここに来る可能性が皆無となると詰んでますね。これ。
「え、ええとですね」
僕は何とか顔を上げて入間さんの顔を見る。僕はその瞬間まで睨まれているのかなと思っていた。煮え切らない僕に怒っていると思ったからだ。だがそれは間違いだった。
「え」
入間さんは今にも泣きそうな顔をしていた。僕が返答を迷っている事から察したのだろう。僕は今まで逃げていた事を後悔した。彼女は胸が締め付けられるような思いをしながら僕に尋ねてきていたのに。
「……、本庄君は小さい時にお世話になったお姉さんの事が忘れらない。本人としてもそれが恋心なのか分かっていない感じだった」
僕は正直に話すしかなかった。そんな悲痛な顔をしている彼女に伝えるのは辛いものがあったが嘘を付いて欲しくはないだろうと思ったからだ。
「そうなんだ……」
「……」
帰りにその女性らしき人と会った事は伝えるか?いや、そっちに関しては全然確定していることではない。全く別の女性の可能性がある。だけど、あの時に見せた本庄君の表情は今まで見たことのないものだった。おそらく……。
「知ってることがあったら教えて。間違ってても怒ったりしないよ」
僕が悩んでいる事を慮ってくれたのだろう。入間さんは優しく諭すように話す。
「……、これは分からないけど、その女性らしき人と再会している所を……」
「分かった。言い辛い事を教えてくれてありがとね……」
そういった彼女は笑っていた。いくら鈍い僕でもその笑顔が無理やり作り出したものだということは感じられた。こういう時、僕は何と言えばいいのだろう。
「は〜、そしたら新しく好きな人を作るかな〜」
「え?」
入間さんは俯いて呟く。何処か達観したように、何かを諦めたように。
「男子なんて沢山いるし……。それより晃よりカッコいい人だって」
彼女は俯きながらそう続ける。だが僕はそこで彼女の下の地面が少し濡れている事に気付いた。泣いていた。その涙を僕に見せないように下を向きながら。
「……、僕は入間さんが後悔しないようにして欲しい」
「え?」
入間さんは顔を上げて驚いた表情で僕の顔を見た。
「本庄君は昔好きだったけど、今でも付き合いたいと思っているか分からないと言っていたんだ。それにその女性が本庄君の事を好きかどうかも分からない」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「入間さんが本庄君じゃなくて他の人を好きになることは全然良いと思うんだ。でも何かを諦めて他の人を無理に好きになる必要は……」
「それ、春日部君が言う?瑠衣と川口さんの二人から好かれてるのに」
「……」
詰みました。それを言われると僕は何も返すことが出来なくなります。というか入間さんは知ってるのかまああれだけ仲良ければそりゃそうか。
「ていうかA、Bクラス|()の人達は結構そう思っている人多いんじゃないかな」
「なん……だと……」
僕は衝撃の事実に固まってしまった。




