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その後、僕達は教室に着いて自分の席へ向かう。鞄を机の横のフックにかける。
「ふんふ〜ん」
ふと横の席の越谷さんは何だか楽しそうだ。旅行が楽しみなのか、鼻歌まじりにニコニコ笑っている。僕はそれを横目に一時間目の授業の準備をする。ふと思い出す。そういえば川口さんとの件があったから忘れてたけど入間さんに本庄君の事何て言えば良いんだ……。自分に色々ありすぎて他のことまで気が回っていなかった。どうしよう。そんな事を考えていると朝礼の時間が始まるからか担任の上尾先生が来てしまう。
「どないしましょ……」
「何で関西弁風な訳……」
僕の独り言が聞こえたのか越谷さんがこちらをジト目で見ている。考えるからちょっと待って欲しいです……。
「い、いや、後で……」
「?、分かった」
不思議そうな顔をしているが一先ず納得してくれたようだ。流石に周りに人がいる時、しかも朝礼中に話す内容ではない。そして、朝礼が終わった後僕は越谷さんを教室の外へ連れ出して人気の無い場所に連れていく。
「ここなら大丈夫かな……」
「……、ねえ」
越谷さんは先程から何故か黙ったままだった。顔を見ると何故か顔が赤い。どうしたんだろう。
「どうしたの?」
「こんな所に呼び出してどういうつもり?」
「ああ、ごめん。あまり他の人に聞かせたい話じゃないから」
「……ふ〜ん。そっか」
なんか、気の所為だろうか。顔が赤いだけじゃなくてソワソワしている気がする。
「じゃあ、本題に入る……」
「ちょ、ちょっと待って……」
僕が話そうとしたら越谷さんがいきなり話を遮り、深呼吸をしだした。様子がおかしすぎる。
「……おっけ、準備出来た」
「う、うん。じゃあ入間さんのことなんだけど」
僕の言葉を聞いた瞬間、越谷さんは芸人ばりにズッコケた。そして気付いた時には僕の脳天にはチョップが飛んでいました。なんでえ!?
「全く、紛らわしい真似しないで……」
「僕、何も言ってないじゃん……」
そう言うと越谷さんはこちらをきっと睨む。怒られる筋合い無いと思うがそれを言うと無限チョップ編に入ることだろうから大人しくする。
「で遥香のことって?」
「いや、小川くんの好きな人を探ってきてって話だったでしょ。それでどうやら本当にいるらしく」
「詳しく……」
僕はこの間、小川君との話やその後、起きた事を話す。それを入間さんにそのまま話して良いかと相談する。
「……、確かにそれをそのまま遥香に伝えると傷付くかもね……」
「え」
意外だ。越谷さんの事だ。それこそ、川口さんの様に本当の事を話した方が良いと言うと思っていた。それは勘違いだったようだ。根は僕と近い保守的なところがある。
「でも川口さんは本当の事を伝えるしかないんじゃないって言われたんだよね」
「……何?川口さんに先に相談したわけ?」
「うん。この間、一緒に……」
途中で言いかけて気が付いた。僕は言わなくてもいいことを口走っていないかとその不安は杞憂ではなかった。越谷さんの顔に青筋が立っているからだ。
「へえ、その話、面白そうですね」
「終わりだ……」
僕は一緒に出かけた話をすることになった。流石に告白されたことは話すのは憚られた。
「ふ〜ん、それでまだ話していないことがあるでしょ」
僕が隠していることを知ってか知らずかずばり当ててきた。これが女の勘というやつだろうか。僕は天井のシミを数えながら考えることにした。




