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本当に色々あった昨日から翌日、月曜となり登校日となった。電車を乗り終えて学校までの道を歩く。正直、学校へ行く足取りが重い。川口さんとどんな顔をして会えば良いのか分からないからだ。
「ハア〜」
「お前、またため息をしてんのな」
声がする方を見ると横に本庄君が立っていた。ちょうどいい、彼に相談をすればいい。本庄君なら口軽くないし他人に言いふらしたりしないだろう。
「そ、それがさ……」
「おう」
僕が本庄君に相談をしようと口を開いた瞬間、誰かが僕の肩を掴んだ。後ろを向くと越谷さんが立っていた。
「二人共、おはよ〜」
「おう、おはよう」
「お、おはよう」
僕は言おうと聞こうと思っていたことを飲み込む。その様子を見ていた越谷さんが不思議そうに首を傾げる。
「今、アンタ、何話そうとしてたの?」
「へっ、ナンデモナイデス」
「いや、絶対、何かあるじゃん。また、私に言えないこと?」
僕は本庄君にアイコンタクトで助けを求める。本庄君は僕の目線に気が付いてため息をつく。
「いや、何か春日部が夏休み、俺達で何処か旅行でも行きたいな〜とか話してたんだよ」
本庄君?助けを出してくれたのは嬉しいんですけど新たな話を作り出してませんか?それを聞いた越谷さんはニヤリと笑った。あ、これ、何か起きるな。
「へ〜、良いじゃん。勿論、私も行って良いんでしょ?」
「え」
当然のように参加宣言をする越谷さん、僕が知らない旅行計画が動き始めているんですけどこれ大丈夫ですか?
「何よ。私と行きたくないっての?」
「そ、そんな事は、越谷さんと旅行だなんて私めは世界一の幸せ者でございます」
僕は当然のように越谷さんから脳天チョップを食らう。身長縮まったら流石に抗議しますからね。
「あとは遥香も当然行くでしょ。後は川口さんもきっと行きたいって言うだろうし」
「まあ、そいつらじゃねえか。小川は面倒くさそうだからこの話秘密な」
哀れ。小川くん、女子達との旅行だなんて聞いたら、飛び上がって天井に突き刺さるくらい喜ぶだろうに。
「了解、じゃあ、クラスでその話しないように二人にはメッセージ飛ばしておくね」
越谷さんはそう言うと、ぴゅ〜っと走って行った。体力ないんだからゆっくり行けばいいのに。いや、それどころではない。
「ほ、本庄君、旅行ってなに?」
「いや、俺も知らん」
本庄君、もしかして何も考えずに旅行だなんて言い出したの?突拍子がないにもほどがないかな?
「で、言いたいことってなんだったんだ」
僕は周囲に知っている人がいないのを確認して昨日のことを話した。本庄君は話を聞いていても知っていたのかあまり驚いた様子もない。
「え、本庄君、川口さんが僕のことをって知ってたの?」
「いや、俺達の中で知らないのお前だけだったぞ」
え、当の本人である僕だけ知らないってそんな事ありますかね。いや、僕のボケっぷりはそこまで行っているということか。ちょっとだけへこむ。
「まあ、そんな事はいいや。それよりお前返事は……、ってその様子じゃ付き合った訳じゃないだろうし。越谷さんと同じ感じか?」
「はい……」
情けない事だ。僕は今、二人から告白されている状況になっている。越谷さんと川口さんが二人共、返事は待つと言っている状況だけど僕はこれからどうすればいいのだろうか。
「そしたら、俺が口からでまかせで出した旅行にも意味が出てくるかもしれないな」
「どういう事?」
「いや、その旅行、多分二人共来るだろ。その時にお前がどうしたいかを真剣に考えるいい機会になるんじゃないか?」
僕達の一生に一度の夏が始まる。




