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「そ、そんな事言われても……」
川口さんに詰められてとても困っている。告白は断っているのにこれ以上何と言えば良いというのだろうか。
「私が聞きたい事分かってる?私と越谷さんどっちが良いかってこと」
「だから二人とも好きだって」
これは嘘ではない。心から二人の事を大事に思っている。……友達として。
「……はあ……、まあしょうがないのかなあ」
「ごめん……」
男らしくないと幻滅したことだろう。好きだと言ってくれたが呆れてそんな気持ちも無くなっているのだろうか。
「うん、でも越谷さんとも付き合ってないみたいだし諦めないよ」
「え?」
「だって、春日部君、好きな人もいないんでしょ?だったら私が諦める理由無いじゃない」
好きな人がいないというより誰とも付き合う気がないというのだけれどもそれで納得はしていない様子だ。越谷さんと川口さん、僕とは違って心が強い。
「川口さんは何と言うか逞しいね」
「……それ女子に対して、全然褒め言葉になってないからね」
僕は蛇に睨まれた蛙のように縮まる。
「逞しいんじゃないよ。諦めるのが辛いだけ。それはきっと越谷さんもそうだよ」
「……」
僕は地面を見ていた。川口さんの顔を見るのが辛くなったからだ。僕が二人の好意を無下にしているという状況に耐えられないのだ。
「春日部君の事が好きで側を離れたくない。だから諦めないって理由を付けて一緒にいたいんだよ」
「……」
本当に情けない。彼女達の事を強いと断じていたことが恥ずかしくなってきた。勇気を出して告白をしてくれてそれを断られて平気なはずがない。
「ごめんなさ……」
「謝らなくて良いよ。謝る必要はないし、謝ってほしくもないから……」
僕は彼女の顔を見る。川口さんは目が潤んでいた。きっと泣かないように耐えているのだろう。そしてその瞳は強い光を纏っていた。
「まあ、良いや。越谷さんは告白した時、何て言っていたの?」
え?と一瞬呆けてしまったが、教えてしまってもいいのだろうか。越谷さんも言いふらされたくはないだろうし。
「後で私から越谷さんに謝っておくし、言えそうなやつだけでいいから」
「いや、僕が後で越谷さんに殴られるから良いよ。」
僕は今から頭の強度を高めていかなくなったようだ。脳天チョップを食らうことは確定してしまったからだ。
「……、越谷さんは僕から付き合いたいって言うまで待つことにするって」
「ええ、悠長だなあ。私はそうしないよ」
彼女は椅子から立ち上がり僕に微笑みながらこう言った。
「私の事を絶対に好きにさせて見せるから!!」
彼女は恥ずかしいのかダッシュして遠くまで行ってしまった。僕は呆けて数秒固まってしまったが、はっとしてすぐに後を追いかけた。川口さんは割と運動神経がいいのかかなり遠くまで走っていたが数十秒後には追いつき、彼女の肩をぽんと掴んだ。
「ハアハア、追いついた……」
「春日部君、元バレー部とあって速いね……」
お互い、下を向いて息を整える。いきなり走るから滅茶苦茶疲れた。
「もう時間も遅くなってきたし、どこかでご飯食べて帰ろっか?」
「そ、そうだね」
川口さんは急に提案をしてきた。確かに辺りを見ると大分暗くなってきていた。もういい時間なのだろう。
「あっ、そういえば二人きりで越谷さんの家に遊びに行ったんだよね?」
「え、あ、はい」
「だったら私の家……、駄目だ。お母さんいるから絶対からかわれる……」
川口さんのお母さんか、間違いなく美人なんだろうなあと脳内で考えてみる。その様子を川口さんに見られて軽く軽蔑の眼差しを受ける。考えている事がバレているのだろうか。
「で二人で家に行ったということはさ……」
「?」
「エッチな事とかしちゃったの?」
「してる訳あるかい!!」
僕は今日一番の大声を上げていた。




