104
「え……」
一瞬、聞き間違いかと思ったが川口さんの真っ赤な顔を見て聞き間違いだったり冗談で言っている訳では無い事に気付いた。
「春日部君、言ってたじゃない。クラスの女の子と一緒に水族館へ行ったって」
「うん……」
川口さんから友達を遊びに誘いなよって言われた後、越谷さんと一緒に水族館へ行った事を伝えて川口さんが不機嫌だった。もしかして不機嫌だった理由ってそういう事だったのかと今更ながらにして理解した。
「あの時ね。余計なことしちゃったかなって。だって友達が女の子だって知らなかったから。そして一緒に並んで歩いている越谷さんの表情を見てすぐ分かった。この子も春日部君の事を好きなんだって」
「……」
「それで二人でいるところに割って入って。私って酷いよね……」
「そ、そんな事……」
今の僕が何を言っても気休めにしかならない事は理解している。だが、彼女の申し訳なさそうな顔を見るのが辛かったのだ。これは僕のエゴなのだろう。
「それで春日部君にどいてもらって、私と越谷さんの二人きりで話したじゃない?」
「う、うん」
三人で話していた時、越谷さんが川口さんと二人きりで話したいと言って僕を帰らせたんだ。その時の話を聞かせてくれるということだろう。
「二人で話し合ってね。やっぱり二人共春日部君の事を好きなんだなってっていうのを確認したんだ」
「……」
正直な所、矢継ぎ早に話を進められて頭が混乱している。川口さんが僕の事を好きだというのもまだ実感出来ていないのに、二人でそんな事を話あっていたのも知らなかったのだ。
「それでお互い、諦めるつもりはない。だけど私達で険悪なままでいたくもなかったから……」
確かに、二人が出会ったときは一触即発といった感じでバチバチしていた。あの時は何故そんなにも険悪なのだと考えたものだがその意味がようやく分かった。
「だから友達になろうって。もし、二人のどちらかが春日部君と付き合ったとしても恨みっこ無しでって話になったの」
「……」
「でその時は、二人共すぐに告白しないって約束したのに……。越谷さん抜け駆けしたみたいだし……」
川口さんを見ると表情は怒っていないが顔の血管が濃く浮き出ている。越谷さんごめんなさいと心の中で謝る。ちなみに脳内越谷さんは僕の脳天にチョップをしている(イメージです)。
「だから私も今、告白したの」
「な、なるほど……」
僕はようやく納得した。いや感情的にはまだ混乱しているが何が起きているかという事だけは把握した感じだ。
「それが返事なの?」
川口さんから鬼のようなオーラが見える。怖い……。告白の返事をしろということだろう。正直な所、答えは決まっている。何と伝えればいいか言葉を選んでいたのだ。
「……、中学の話をした時にも言ったけど。僕は誰かと付き合うつもりはないんだ……」
「それは分かったよ。で?」
でとは?え、これが答えなんですけどと脳内で混乱する。何だ、川口さんは何を聞きたいと言うのだ。僕は必死に脳をフル回転させて思案する。
「私と越谷さん、どっちが好感度高いの?」
「はい?」
何を聞いているんだろう。越谷さんと川口さん、どっちがより好きかみたいなことを聞かれているのだろうか。
「い、いや、二人共、好きだよ」
「違います」
僕は何故かこの後、数十分かけて川口さんから物凄い勢いで問い詰められたのだった。




