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僕は当然、冗談だったので本気にしている川口さんに驚いている。顔をよく見ると真っ赤になっている。
「え、本当に繋ぐの?」
「い、嫌ならいいよ……」
川口さん頬を膨らませて歩き出してしまった。また怒らせてしまったみたいだ。どうにも僕は女子を怒らせてしまうことが多い気がする。主に越谷さんと川口さんだけなのだが。僕は立ち止まって川口さんの背中を見つめる。
「……、早く行こうよ」
「う、うん」
僕達は並んで書店を周る事になった。書店はかなり大きく見応えがありそうだ。
「わ〜、この本可愛い」
「どんなの?」
川口さんが立ち止まり本を手に取った。その本を見てみると可愛い動物の絵が書いてある絵本のようだ。自分はこういうの読まないから新鮮だ。
「可愛いね。絵本好きなの?」
「うん、絵柄が可愛いから、偶に買うんだ」
なるほど、絵本というと子供が買うものとばかり思っていたが所謂、女子も買ったりするんだなあと趣深い。
「春日部君は小説ばかり?」
「まあ小説が多いかな。後は漫画を買うよ」
言われてみればあまり他の書籍を買ったりしないなあと思う。真っ直ぐ小説と漫画のコーナーへ行って物色するだけだからなあ。
「じゃあ、折角だし今日は色々な本を見ようよ」
「おねがいしやす!!」
僕は頭を下げてお願いする。川口さんはこんな店中で頭を下げないでとあたふたしていた。優しいな、越谷さんだったら脳天チョップを喰らっていたはずだ。その後、道なりに本を眺めながら歩いていく。
「あ、ここ動物の写真集のコーナーだね」
「へ〜、結構色々あるんだね」
今まで気にしても無かったがかなりの種類がある。百冊以上はあるはずだ。勿論、ここまで多いのは大きな書店だというのが要因ではあるはずだ。
「ね〜、見て見て。可愛い猫ちゃん」
川口さんの手に取ったのは路上にいる猫を撮影した写真集のようだ。というか川口さん猫ちゃんって言うんだ。かなり可愛いなと思う。気持ち悪いだろうから口には出さないけど。
「猫好きなの?」
「うん。家でも飼ってるんだ」
そういうとスマホの待ち受けを見せてくれた。画面には川口さんが猫を抱えながらピースしている画像が写っていた。美少女+猫=最強の図式が完成した瞬間であった。
「三毛猫のピー助って言うんだ」
「なにそれ、可愛い」
やばい、つい口に出してしまった。僕から言われても嬉しくないだろうから言うつもりなかったのに。
「でしょ〜、ピーちゃん可愛いんだ」
どうやら、猫の事を可愛いと言ったと思ってくれたようだ。ふう、助かった。川口さんは楽しそうに飼い猫の事を話してくれる。僕はうんうん頷きながら話を聞く。正直、猫の事は好きでも嫌いでもないといった感じではあるけど川口さんが楽しそうなので黙って聞く。
「じゃあ、次行こうか」
川口さんは本屋で話しすぎたと感じたのかそそくさと次のコーナーへ向かった。僕も慌ててそれに付いていく。次に川口さんが立ち止まったのは漫画コーナーだ。とはいっても少女漫画のコーナーである。またしても僕が行かない所だ。
「川口さんも少女漫画とか読むんだ」
「むっ、私だってこういうのに憧れるもん」
他意は全く無かったのだけどバカにしていると勘違いされてしまったようだ。僕は「ごめんなさい」と即座に謝る。
「まあ、良いけど。あっ、これ好きなんだ」
川口さんが手に取った漫画は見たことがあるものだった。何かドラマがやっててイケメン俳優が沢山出ているから話題になっていたはずだ。
「やっぱり川口さん程の美人となると相当なイケメンじゃないと釣り合わないもんなあ……」
「えっ、そんな事ないよ。私、イケメンってだけじゃ好きにならないもん」
川口さんはそう言いながら僕の顔をチラチラ見る。イケメンじゃなくてすみません……。