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「春日部君、こんにちは……」
何と間が悪い事だろう。僕と越谷さんが一緒に居る所を川口さんに見られた。男女が一緒にいるからとあらぬ誤解をさせてしまう。
「こ、こんにちは、えーと……」
「と、隣の女の子って彼女さん?」
僕が何か言おうとした時に、川口さんに遮られる。川口さんを見ると何処か焦ったような様子を伺わせた。
「そ、そんなわけ……」
「そうだとしたら、どうしたって言うの?」
またしても僕の言葉は遮られた。ただ、今度は隣の越谷さんから衝撃的な言葉が発せられた。え、僕ら付き合っていないよね?
「あ、あなたじゃなく、私は春日部君に聞いているんです」
何故、僕がこんな事態になっているかというと発端は一か月前の4月、高校入学したばかりの事である。
僕、春日部隆は高校を選ぶ時、何故か地元から遠く離れた高校を選んだ。学力的に自分が合っていたというものもあるが、新しい環境で友達が出来そうだと思ったからだ。しかし、その選択は自分にとってあまり良い結果を生まなかった。そう、友達が全く出来なかったのである。
どうやらクラスの人達は中学の頃からの知り合いが多いらしく、またそうでもない人も明るく回りの人間と打ち解けていった。しかし、自分は周りに知り合いがいないことに加えてあまり活発的な性格をしていないこともあり友達が全然出来なかった。別にイジメに合っている訳でもないが一緒に話す友達が全くいないため休み時間は机で寝たふりをするか読書をしていた。
「はあ……」
昼休み、食事を終えいつも通り読書をしている時、ふとため息がこぼれていた。周囲を見渡すとクラスメイトは特定のグループで集まって楽しそうに話している。別にキャピキャピしたい訳じゃないがずっと一人でいるのも何だか気が滅入るなと思う。
それと憂鬱な事はさらにある。左隣の席をチラっと見る。そこには髪を明るく染めてピアスも開けているギャルがいた。彼女は越谷瑠衣。彼女もまた僕と同じくボッチである。だが最初から全く話されなかった僕と違い、彼女は事情が違う。
クラスのほかの女子が勇気を出して越谷さんに話したことがあった、その時。
「え、何?」
あまりに不愛想なその様子に、一度勇気を出した女子もそれ以降越谷さんに話すことが無くなり、周囲から怖がられている。まあついでにいっておくと高校は割と偏差値が高いわりに校則が緩く越谷さんの格好も認められているが周りにそこまで派手な格好の子がいないため浮いているといった事情だ。
とまあ、そんな事を考えていると昼休憩も終わりの時間だ。僕は机の中に入れてあった教科書とノートを取り出して次の授業の準備をする。
「あっ」
左隣の席から声が漏れる。何事かと見ると越谷さんが机の中を捜している。もしかすると教科書か何か忘れたのだろうか。ちょっとしたら次の授業の上尾先生が教壇に来てしまった。
そうして授業が始まってしまう。越谷さんをチラリと見ると頭を抱えているように見える。もし当てられたりしたらと悩んでいるのだろうか。そしてその予感は悪くも当たってしまう。
「よし、じゃあ、越谷。次の所を読んでくれ」
越谷さんはどうしようと悩んでいるようだ。余計なお世話かもしれないが僕は先生に見えないように彼女に教科書を手渡し、指で読む行を指さした。越谷さんの顔を見ると驚いたのかキョトンとした顔だったが僕の意図を汲んだのだろう。
「え、えーと、弥生時代は……」
僕から教科書を受けとり自分が読む範囲を無事読むことが出来た。
「あ、その、ありがとう」
教科書を読み終えた後、僕に教科書を手渡して来た時、照れたようにお礼を言ったのだった。
※名前が被るため深谷亜紀を川口亜紀の名前に変更いたします。
(旧)深谷亜紀→(新)川口亜紀