表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/124

83.魔法の基本は想像力


「嘘でしょ……」


 燃え盛る炎に囲まれた危険な状況で、カトリーナは呆然とした。

 今起こったことが、助けに来た自分が見捨てられた事が、信じられなかった。


 プレオの件以来、ジゼルの事は嫌いだったが、直ぐに仕返しできた事もあって、大切な物を燃やしたアザミほどの恨みは無かった。


 助けようとした結果が、この様だ。


―もう二度と、助けてなんてやらないわ。


 熱さと煙で意識が朦朧としながらも、何とか怒りの感情で持ちこたえる。

 出来るだけ煙を吸わないように、姿勢を低くし、逃げ道がないかを見渡した。


―先生は、助けは、まだ来ないのかしら?この騒ぎなら、とっくに誰か来ても良さそうなのに。


 疑問に思うも、こうなってしまった以上は、いつ来るかもわからない救援を、待つ余裕は無い。


―アザミが炎を発した時に、さっさと逃げるんだったわ。


 そう思いはしたものの、アザミから逃げるという選択を、絶対に自分は取らないだろうなと思った。


カトリーナは自分の水魔法で消えなかった炎を、逃げ道を塞ぐ炎を睨む。細く吸い込む空気が、喉を焼いて痛い。


―あんな杜撰ずさんな女の魔法に対処出来ないなんて、自分にがっかりよ。


 そもそも、この炎はアザミの魔法なんだろうか?

 本当にアザミの魔法ならば、カトリーナが冷や水を浴びせて気が削がれた時に、炎は消えるはず。


―知らない魔法かしら?それとも……


 ひとつ思い当たる事があるが、煙で咳が止まらなくなってきた。

 息苦しくて、心無しか視界も霞んで見える。


―とにかく水よ。今の私にはそれしか出来ないわ。どの道苦しいんだから、せめて熱さからは逃れたい。


 カトリーナの魔法で鎮火は出来なかったが、威力を弱める効果はあった。

 つまりは、全くの無意味では無いという事。


さっきの水量で足りないのなら……



―この教室全体を水没させれば、火は燃える事が出来ないはずよ……。



出来るかどうかを躊躇う時間は、カトリーナには無かった。


 カトリーナは人生で目の当たりにした大きな水溜みずため―海を思い浮かべながら、魔力を込める。レーム学園に入学するために乗り込んだ船から、飽きるほど眺めた、どこまでも広がる海を。




〈具体的に想像することで、魔法の精度は上がる。魔法の基本は、技術でも知識でも無く、想像力なのだ。〉




 これは『はじめてのまほう』の最初のページに書かれていた文言だ。


 カトリーナは想像する。

 全ての炎を消し去り、自分も何もかもを飲み込むほどに大きな海を。


―本物は無理でも、やるしかないわ。炎を消さないと私が死ぬんだから。


 こんな所で死んでは、伯爵たちの思う壺。それだけは死ぬよりも嫌。


―溺れるかもしれないけど、その前に私の魔力が尽きる事を祈るしかないわね。


 どんなに強く大きな魔法でも魔力が尽きれば、消えて無くなる。

 そうすれば呼吸も出来て、炎が強まる前に逃げられるはずだ。


 カトリーナは半ばヤケクソの覚悟を決めて、全身からかき集めた魔力を、一気に放出する。




 ドッバッシャーーーーーン!!!!!




 天井から辺り一面に、荒れ狂う海の様な水が叩きつけられる。

 その勢いで炎も、机も何もかもが水に吞み込まれていった。


 カトリーナも頭から水を叩きつけられて、水流に押さえつけられるかのように、床に突っ伏す。全身の刺し痺れるような鈍痛に顔を歪めるも、痛みが声に漏れる事はなかった。


 代わりに、大きな水泡が口から洩れる。上からの圧力が消え、足が床から離れた。身体は不安定に水中を彷徨う。見渡す全てが水の中。勿論、炎は全て消えていた。


 カトリーナ渾身の水魔法は、成功したのだ。

 

―凄い凄い!私って天才だわ!!


 喜んだのも束の間。先程、大きく息を吐いたせいで、息苦しさが増す。


―今度こそ、本当に死んじゃう!!


 頭に酸素が回らない中、錯乱状態になりつつも、無意識にカトリーナは上を目指して水を掻く。


 が、


―?流されてる?


 教室の扉によるものだろうか?水中に潮の様な流れが生まれて、カトリーナの身体はどんどん引っ張られて、流されていく。

 流れている間に口や鼻から水が入りこみ、いくらか飲み込んでしまった。カトリーナは、人生で初めて死ぬかもしれないと思った。


―自分の魔法に殺されるなんて、馬鹿みたい……


 魔力をこんなに使ったのは初めてだった。もう、指一つまともに動かない。

 それでもカトリーナの魔力は枯れないのか、水が消える気配が無い。


―私って、本当に天才なのかも。


 薄れゆく意識の中で、暢気のんきにもカトリーナは思った。


―水がしょっぱい……。


 まるで本物の海みたい。



お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


よろしければ評価★★★★★や、ブックマークを

お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ