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81.ボヤ騒ぎのち大火事


「カトリーナ!!」


 エイミーが突然叫んだ。

 人前でこんな大声を出したエイミーを、カトリーナは初めて見た。


 驚くカトリーナに、エイミーは切羽詰まった表情で「後ろ!!」と叫ぶ。

 それと同時に強い熱風を背中に感じ


「おい、お前!何やってんだよ!!!」


 と、怒鳴るテオの声も聞こえた。



 振り返ると、目の前には大きな―というには小さい炎の渦が燃え盛っていた。

 近くに居るアザミよりは縦に長いが、幅はそんなに無く、横に居るアザミが更に肥えて見える。


 顔を歪めてヘラヘラと笑いながら、アザミは得意げに炎を操って見せる。

 カトリーナは心底呆れた。


―馬鹿な女だと思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ。頭の病気か何かじゃないかしら?


「デルルンドさん!今すぐ止めて!このままだと本当に火事になる!!!」


 ファンソンが叫ぶも、アザミは聞く耳を持たない。

 炎は不安定に揺れて、今にも倒れそうだ。魔法が保たれたままだと、何かしらに燃え移ってしまう。


「アハハハハハ!いつもいつも……私を馬鹿にして……!」


 歪な目でカトリーナを見ながら、アザミがぶつぶつと呟く。



 同じ空間に炎が出現したというのに、教室は慌ただしくも、どこか落ちついた空気が流れていた。

 レーム学園で学び始めた自分たちにとって、アザミの魔法が身構える程の物じゃない事を皆、知っているからだ。


 呑み込みは早いが、ものぐさで練習や鍛錬を馬鹿にしているアザミは、魔法の精度は大したことない。この炎も、何もしなくたって直ぐに、魔力の限界がきて消えるはずだ。


 止めるように言ったファンソンも、万が一火事になった時に「私はちゃんと止めた」という事実が()()()()()欲しかったに過ぎなかった。


 教室に居る全員が、アザミに呆れと軽蔑の目を向ける。

 普段は他人事に干渉しないが、あまりにも目に余るので、無視できなかったのだ。


「何よ……、アンタも周りも……」


 アザミは今日、教室に来て初めて、狼狽うろたえを見せる。

 呆れ、侮蔑、嫌悪、苛立ち―様々な感情が無言でアザミを責め立てていた。

 それを振り切るかの様にアザミは自暴自棄に叫ぶ。


「どいつもこいつも、みんな死んじゃえ!!!」


 すると、ボンッと破裂音と共に、炎の渦は弾け飛んだ。

 急な火の粉に、教室内は今度こそ騒然となる。机や紙に燃え移り始めた。


「ブタ女!お前、今まで散々殺されかけただの、騒いでたくせに、お前の方が人殺しじゃねえか!!」


 テオの怒りの声に、マルガレーテが初めて焦りを見せる。


「変に刺激しないで!この私が火傷したら、どう責任を取るつもり!?」


「うるさい、うるさい!!うるさーーーい!!」


 アザミが尚も喚き続け、その声に呼応するように火は更に燃え上がる。


「皆さま、防衛魔法をご自身に使ってください」


 さっきまで泣いていたデイジーは、そう呼びかけつつも飛び火した場所に向かい、魔法で土くれを発現させる。燃え移った小さな火種は、これで消えた。


 カトリーナも水魔法で火消しに加勢するも、直ぐに邪魔が入る。


「アンタにはコレよ!!」


 アザミがまた、炎の渦を出現させる。

 今度の炎はかなりの出来前で、どんどん燃え盛り大きくなっていく。


―アザミの魔法にしては出来すぎだわ。


 カトリーナが怪訝に思うも、炎はじわじわと近づいてくる。


「トレンス嬢、逃げろ!!」


 レスターがこちらに駆け寄ろうとしているのを、視界の先に捉えて咄嗟に


「危ないから下がって!」


 と、止める。


 アザミが血走った目をして、ぶつぶつとカトリーナに恨み言をぶつける。


「みすぼらしい、乞食の癖に……アンタなんかに、私が……コケにされるなんて、有り得ない、有り得ないわ!!」


 アザミの炎が更に勢いを増して渦巻く。不安定にグラグラと揺れる渦に、教室に危機感が増した。


―大した魔法じゃないけど、相変わらず制御が下手ね。誰かに燃え移れば大事おおごとになるわ。


 そうなる前に消さなくちゃと、カトリーナは水魔法を繰り出す。


―とっておきの冷たい氷水を浴びせてやる。


 魔力量の豊富なカトリーナにとって、水場の無い所で大量の水を出現させることは、容易な事だ。思い切り、ありったけの冷や水をアザミにお見舞いする。


 大きな桶に溜まった水をひっくり返したかのように、大量の水が勢いよく、アザミと渦に降りかかった。炎は全体に水をかぶり、ジュワーーーと音を立てて勢いを失っていく。


 白い蒸気が立ちこむ中、


「イヤぁぁぁぁ!!!」


 氷の様な冷たさにアザミは、ずぶ濡れになり凍えながら悲鳴を上げる。


 これでアザミの集中が途切れ、炎は消えるはずだが……。


―火が消えて無い?


 全ての水が流れ落ち蒸気が晴れると、弱弱しい炎が、また燃え盛ろうとしているのが見えた。カトリーナのこめかみに一筋の汗が流れる。


「火が消えない?どうして!?」


 レスターが困惑の声を上げる。


「あんなに水を掛けたのに!?」


 カトリーナが魔法で生み出した水は、消火に充分な量のはずなのに、炎の渦は弱まりつつも消える気配も無い。



「おい、お前。往生際が悪いぞ!!」


 テオがアザミに嫌味を言う。


「諦めてとっとと消せよ。またカトリーナに泣かされるぜ?」

「そうよ、いい加減にして!!私達は殺されかけたんだから、貴女への罪悪感なんて気にならないわ!!」


 ジゼルもテオに便乗してアザミを詰る。


「さっさとしなさいよ、ノロマ!!」


 ジゼルが調子に乗っている最中、カトリーナは、だんだん元の勢いを取り戻している炎から目が離せない。


―アザミはもう魔法を制御してないのに、どうして?


 カトリーナが疑問に思うと同時に、アザミも呆然とした顔で


「どうして?火が消えない……止まって!消えて!」


 と、何やら試すも炎はまた、どんどん燃え盛る。




「わ、私……ち、ちが、違うわ!私じゃない!!これをやったのは私じゃないわ!!」





お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


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