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79.相変わらずな女(1)


―エルかもしれない!


 そう期待して振り向き、直ぐに後悔した。


 そこにいたのはラトリエルではなく、アザミだったからだ。

 実家に帰ったおかげで、最後に見た時とは比べ物にならないくらいに清潔感があるが、更に肥えもしたようだ。


 カトリーナは興味を失くして、銀の鍵を握り直すも、


「あらぁ~、家なしの乞食がまだ生きてるじゃなぁい!」


 アザミは大声でそう言うと、わざわざこちらに近づいてくる。


―来なくて良いのに……。


 そう思ったカトリーナだが、周囲の反応も、アザミにうんざりしている事に気が付く。来て早々、相変わらずのアザミに、他の生徒達は不快さを隠さずに様子を窺っていた。いつの間にか教室に居たジゼルは、アザミの視界に入らない様に教室の隅に佇んでいる。


―アザミって本当に馬鹿よね。こんなに目撃者が居るのに、わざわざ自分から喧嘩を売りに来るなんて。


 アザミの方から嫌味を言ったのは、ここに居る全員が証人だ。

 王城の密室で殺しかけた時とは違う。


―流石に、この間みたいに魔法は使わないけど。アザミが使わなければね。




 周囲の迷惑そうな空気にも関わらず、アザミは尚もカトリーナをき下ろす。


「帰る家も無いなんて、本当に惨めな人ね。アンタは何にも持たない貧乏人!それで?服の次は何を恵んでもらったの?」


―服の次?恵んだ?


 アザミが何を言っているのかわからない。


「何言ってるの?新学期早々、訳の分からない事を言わないでくれる?何も恵んで貰ってなんかないわ」

 

 カトリーナが言うと、アザミは「隠したって無駄よ」と勝ち誇った顔をする。


「じゃあ、その手に持っているのは何よ。新しい服を買うお金も、送ってくれる家も無いアンタにお菓子なんて手に入るわけ無いじゃない」


 アザミが指を差したのは、先程デイジーから貰ったハニークッキーの袋。


 カトリーナは、怪訝な―少し引いた表情を隠さずに言う。


「これはデイジーとエイミーのお母様が作ってくれたクッキーよ。ついさっきくれたばかりだけど、貴女、教室に着いて直ぐこれに気が付いたの?」


―どれだけ食い意地が張ってるのよ?確かに美味しそうだけど、目ざとすぎるわ。


 アザミの食い意地におののいていると、


「ほらほら!やっぱり施して貰ってるじゃない!伯爵令嬢の癖に、よくもそんな卑しい真似が出来るわよね」


 アザミが不快な笑い声を上げながら言う。


 すると、


「このクッキーは、カトリーナが送ってくれたはちみつで作った物。貴女にとやかく言われる筋合いは無いわ。乞食だのなんだの、撤回して」


 突如、エイミーが立ちあがって、アザミの方に早口で詰め寄った。

 デイジーが止めようとするも間に合わず、姉は、あわあわと妹の方を見るしかなかった。


 アザミがエイミーに


「何よ、陰湿女。卑しいお友達を庇おうっていうの?」


 と馬鹿にしたように言った。


「アンタには関係ないじゃない。いつもみたいに、うじうじと下を向いてお勉強でもしたら?」

「関係あるわ。このクッキーは私達のお母様が、大切な友達にと贈った物なんだから」


「貴女にはあげない」とエイミーが言うと「要らないわよ!」とアザミが怒鳴った。


 普段のエイミーは、他の生徒とは殆ど話さない。


「あいつ、喋れたんだ」


 と、テオが感心したように呟いたのが、微かに聞こえた。




 妹の傍に来たデイジーが、エイミーの手を引っ張って下がらせつつも、アザミに向き直る。


「エイミーの言う通りですわ、デルルンド様。貴女が仰ったことは全てお門違いです。()()()()()()カトリーナ様に謝罪してください。今なら大丈夫なはずです」


 優しいデイジーは、罪悪感の事を言っているのだろう。

 アザミ(こんな人)であれ、死なずに済めば良いと思えるのは、この世界でデイジーと、そのお母様くらいだろうと、カトリーナは思った。



―こんな事で死んでくれるような繊細な心を、アザミが持ってるわけ無いのに……。



 カトリーナはそう思ったが、アザミの反応はそれ以上に酷いものだった。

 デイジーの言葉を、アザミは心底馬鹿にした。


「謝罪?フン、子爵令嬢のアンタが私に命令すんじゃないわよ!!」

「ここで身分は関係ありませんわ。悪い事をしたら、あやまちを犯したら謝るべきです。この学校では、正しい行いが自分の身を守る事を、貴女も知っていますでしょう?」


 そう説得するデイジーを、アザミは鼻で嗤って


「アンタ、自分が聖女サマにでもなったつもり?」


 と言った。


 アザミの言葉に、デイジーは言葉に詰まった。

 エステル姉妹の母親、子爵夫人は皇室より「聖女」の称号を賜った魔法士だと、教えて貰った事がある。

 そんな母に、デイジーは特に憧れているのだ。


 それを、あまりに酷い言葉で詰られて、固まるデイジーにアザミは更に言い募る。


「アンタの母親の事、パパが知ってたわ。娘のアンタは、()()()土属性のくせに、偉ぶっちゃって!!」


 肩を震わせて、デイジーは今にも泣き出しそうだった。


「そ、そんなつもりじゃ……」


 カトリーナは、怒りで頭に血が上るのを感じた。

 こんな身も心も汚い女に、心の優しいデイジーが傷つけられたのが、気に入らない。


 カトリーナはアザミに詰め寄り、顔を思い切り引っ叩く。


「いい加減にして!!さっきから何なのよ、貴女何がしたいの!?私だけじゃなく、デイジーやエイミーまで貶すなんて許せない!!」






お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


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