78.休暇明け(3)
ガランとしていた教室に、次々と人が集まっていく。
銀の鍵のおかげで、誰も疲れていない。王城とかで配られたのだろうか。
「おおー。お前生きてたんか!?」
現れたテオが、開口一番にカトリーナを指さして言った。相変わらずのテオにカトリーナが「悪い?」と言い返す。
―レスターとは大違いだわ。せめて「人に指を差してはいけない」っていう常識は無いのかしら?
言い返したカトリーナに、テオは、丸くしていた目を吊り上げて、
「そんな事言ってないだろ!」
と、睨みつけた。
「喧嘩は止めて。怖いから……」
テオの近くにいたファンソンが怖々と二人―主にテオを止める。
「トレンスさん。口は悪いですが、テオはあなたを心配していたんです。でも、無事だったので良かったです」
ファンソンが言うと、テオが決まり悪そうに顔を顰める。
「なっ、ま、まぁ、そうでも無い事も無い」
テオの挙動不審さに、カトリーナは思わず笑ってしまう。
「心配してたの?それは悪かったわ。喧嘩を売られたと思ったから」
「売ってねぇ……いや、何でもない」
テオはそう言うと、フイッと背を向けてカトリーナから離れた席に座った。
―悪い人じゃなさそうだけど……。ファンソンが言うように、口が悪いのよねぇ。
カトリーナはテオの背中を見ながら、残念に思う。
喧嘩を仲裁してくれたファンソンにお礼を言おうとしたが、彼女も、すでに離れて席に着いていた。
ファンソンは怖がりな少女だったが、この数ヶ月でレーム学園の校風に染まり、臆病ながらも、自分が正しいと思う行動を取る様になっていた。
カトリーナとテオを仲裁したのも、己の良心に基づいた結果なのだろう。元の性格も相まって、カトリーナや、他者との関わりは少ないけれど。
その変化を知ってから、カトリーナはファンソンの事を、勝手に見直していたのだった。
椅子に座った時、不意に視線を感じる。
視線の方を見ると、マルガレーテがこちらを見ていた。
カトリーナと目が合うと、マルガレーテは、手に持った扇をはためかせて目を逸らす。
―何かしら?気のせい?
話しかけようか迷ったが、丁度、エステル姉妹が転移してきた。
「ご機嫌よう、カトリーナ様。お変わり無いですか?」
デイジーがカトリーナの前の席に着いて声を掛ける。エイミーはその隣に付いて「お久しぶりです、カトリーナ」と言った。
「御機嫌よう。居残りも結構楽しかったわ、ご両親は元気?」
「ええ。あ、そういえばお手紙ありがとうございました。レーム学園で新しいお友達が居るって知って、お父様とお母様も喜んでいました。おかげで二人を安心させられましたの」
デイジーがクッキーの入った袋を差し出す。
「頂いたはちみつで作ったハニークッキーです。お母様がカトリーナ様にと」
「わぁ、美味しそう!後で頂くわ」
クッキーを貰うと「そういえば、ハスティー様は?」とデイジーが聞く。
「エル……あ、えーっとハスティー卿は、まだ来てないわ」
エル、と呼ぶのは二人だけの時にしている。ラトリエルの方は兎も角、急な愛称呼びは、ちょっと恥ずかしいからだ。それについては、ラトリエルも承知している。
慌てて言い換える様子を、デイジーとエイミーが生暖かい目で見守るも、カトリーナは二人の視線には気が付かず、ラトリエルの姿を探した。
―まだ来てないみたい。帰る時は無事だったみたいだけど、この前倒れた時も来る時だったし……。
もしかして、また倒れているんじゃ?
そんな考えが浮かんで不安になる。
「ちょっと植物園に行ってみる。この間みたいな事があったら大変だから」
銀の鍵を使って転移しようとすると、教室にまた新しく人が来た。
―エルかもしれない!
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