77.休暇明け(2)
制服に着替えて教室に向かう。中に入ると、誰も居らずガランとしていた。
―一番乗り!当然だけど。
まだ、みんなは戻っていない。
カトリーナは一番後ろの角の席に座った。
レーム学園は、新学期早々授業がある。
最初の授業は、コルファー先生の呪文学だ。
呪文学は、魔法士らしい授業でカトリーナが好きな授業だった。
―課題が多くて、試験が難しいのが難点だけど。
カトリーナは課題を机に置くと、時間が来るまで待つ事にした。
数十分後―
最初に現れたのは、レスターだった。
長く伸ばしていたミルクティー色の髪が短く刈り上げられ、最初は誰なのかわからなかった。
銀の鍵で教室に転移してきたレスターは、キョロキョロと辺りを見回してカトリーナを目に止めると
「久しぶり。学校に残ったと聞いたが、変わりは無さそうだな」
と言った。
「ええ、見ての通りよ。貴方は随分と……雰囲気が変わったわね」
カトリーナがそう言うと、レスターは髪に手をやった。
「頭が軽くなったよ。ずっと切りたかったからな」
「前は令嬢よりも長かったものね。今の方が似合っているわ」
「そう言って貰えて嬉しいよ」
レスターは1年生の中でも体格が良く、大人の男と言っても差し支えなかった。
もしかしたら、年齢も一番年上なのかもしれない。
長髪の時も高貴な感じが出ていて似合っていたが、短い方がカトリーナは好きだ。
―せっかく伸ばした髪を切ってしまうのは、少し勿体ない気もするけど。
そう思ったが、カトリーナは口にしなかった。
「他の皆は?」
「まだ会っていないな。俺は事情があって一足先に来ることになってね、もうすぐ来るんじゃないか?」
「事情?」
カトリーナが聞くと「そう、事情」とレスターは一言。
それ以上は何も言わないレスターに、カトリーナもそれ以上は聞かなかった。
「付かぬ事を聞くが……」
今度はレスターがカトリーナに聞く。
「休暇中に植物園には行ったか?」
「ええ、何度か散策に行ったわ」
カトリーナは頷く。プレオを連れて行った。植物園は主にメディアン先生の管轄で、たまに水やりを手伝った褒美に、ハーブティーをごちそうになった事がある。
その事を話すと、レスターは目を光らせた。
「なぁ、その間に珍しい薬草が生えていたなんて事は無かったか?」
レスターの問いに、カトリーナは戸惑いながらも答える。
「うーん、特に変わった事は無いと思うわ。私自身、薬草に詳しい訳では無いし」
「メディアン先生は?あの人は何か言ってなかったか?」
尚も問うレスターに、カトリーナは首を横に振った。
「何も。メディアン先生が在学中から研究している「メモワール」が、この冬も無事に咲いたって事しか……」
メディアン先生はコルファー先生と同じく、レーム学園を卒業してそのまま研究者兼教師になったと聞いた。
メモワールは豊富な魔力を宿らせた神秘的な花で、花が完全に開いている間に魔力を込めると、周辺の出来事を記録する習性がある。
季節を問わず、種を巻いて半年で花を付けるが、聖地以外には生息しない。
とても貴重な花で、市場にも出回っていないという。
このメモワールを聖地の外で咲かせる事に成功した事で、メディアン先生は、若くして男爵の位を賜り、魔法植物界の権威となったのだ。
休暇中、メモワールについては色々な話を聞いたが、それ以外は思い当たる節は無い。カトリーナがそう話すと、レスターは「そうか……ありがとう」と言った。
「メディアン先生なら、聞いたら教えてくれるわよ。専門だし」
顔には出していないが、落ち込んでいる様にも見えるレスターに、そう声を掛ける。
「あぁ、そうしてみるよ」
レスターが頷くと丁度、教室に次々と人が集まって来た。
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