76.休暇明け(1)
カトリーナがレーム学園に入学して、4か月が経った。
長期休暇に入って元々静かなレーム学園は、この3週間、更に静寂に包まれていた。
カトリーナは1年生で唯一、実家に帰らずに学校での居残りを選んだ。
それを聞いたエステル姉妹や、ラトリエルからは心配されたが、カトリーナにとっては実家に帰る方が不快になる。
―元から帰るつもりは無かったし。レーム学園に残れるのは、幸運だったわ。先生方にも驚かれたけど。
居残りを希望した時、コルファー先生は忙しなく眼鏡を上げながら
「ここじゃなくても、公国の民宿がありますよ。レーム学園の学生なら住み込みで働いて、給金を得る事も出来ます」
と、レーム学園を、聖地を出る事を強く勧められた。
メディアン先生は、たまたま近くで聞いていたのか
「私達もー研究でー、休み関係なく残るんだしー、別に良くなーい?」
と、話に入って来た。
「しかし、ここに長居するのは―」
「宿題を気にしながらー、休みなしでー働くのはー、けっこう大変よー。レーム学園はー魔法専門学校の名門としてー、宿題を減らすのはー、ありえないしー」
メディアン先生がそう言うと、コルファー先生は少し言葉を詰まらせるが、
「……貴女が言うと説得力がありますね。わかりました。トレンス嬢、くれぐれも無理はしない様に。気が変わったら、いつでも言って下さい」
こうして、カトリーナは休暇をレーム学園で過ごす事になった。
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休暇明け―
カトリーナは自室で目を覚ます。
ベッドから降りてカーテンを開けると、冬の朝日が部屋に差し込む。
カトリーナは、大きく伸びをして、半分寝ている身体を覚ます。
―今日から新学期ね。その前に……
カトリーナはプレオを召喚する。
プレオはまだ眠っており、鼻提灯を吹いていた。
「プ……プオーンゥ……」
寝言の様な鳴き声に、カトリーナは微笑む。
―昨日たくさん遊んだから、寝つきが良いのかしら。いつもは起きてる時間だけど。
休暇中は魔力が許す限り、プレオと時間を過ごしていた。
学校がある間は授業もあるので、長く召喚できなかったが、休暇中は半日ほど一緒に居る事が出来たのだ。
この暮らしのおかげで、プレオの召喚には、他の精霊や魔法生物達よりも、大幅に魔力を消費することがわかった。
カトリーナが持つ魔力に惹かれて、プレオはカトリーナの元に導かれたのだろうと、スローン先生は推察している。
―本当にプレオは癒しだわ……。ペットとは違うけど、なんか良いわね、こういうの。
ここを卒業した後も、プレオは契約を解消しなければ召喚できる。
―スローン先生が言うには、プレオはかなり大きくなるらしいから、広くて伸び伸びと出来る環境が必要よね。
この長期休暇で、特別課題のレポートをスローン先生にかなりの量を送る事が出来た。
定期的に先生にプレオを会わせる事で、プレオはスローン先生にも懐き、先生は泣いて喜んだ。勿論、課題の報酬は、しっかりと貰っている。
―おかげで私服の新調も出来たし、プレオには感謝しかないわ。
将来は大金持ちになって、プレオに広い平原を買い与えよう。
大人になった自分が、大きくなったプレオに乗ってのんびりと散策をしている所を想像する。幸せな未来だ。
「プオゥ?」
プレオが瞼をぱちくりと開け、カトリーナの顔を見ると「プオッ!」と挨拶をした。その時、長い鼻先にくっ付いていた鼻提灯が割れて、カトリーナは「フフッ」と笑う。
「おはよう、プレオ。今日から学校よ、デイジー達も戻って来るわ」
デイジーの名前を聞いたプレオは「プオプオ~」とご機嫌になる。
時々おやつをくれるためか、友人の中ではデイジーに懐いているのだ。
物を強請るような子にはしたくないが、デイジーの優しさに甘えてしまっている。
街に降りた時に、日頃のお礼で友人たちに贈り物をした。
お菓子やお茶を嗜むデイジーには、ちょっと良いはちみつを。
勉強が好きなエイミーには、万年筆の替えインクを。
ラトリエルには、迷ったがカフスボタンを贈った。
それぞれから、手紙や贈り物を貰い、返事を見るに3人とも喜んでくれたようだ。
意外だったのは、イヴからも手紙が来たことだ。
ラトリエルから、居残りの事を聞いたらしい。
どうやら二人は休暇中に会っていたようだ。
イヴからの手紙には、言ってくれれば家に招いたのに、と書かれていたが、公王一家の世話になるのはちょっと緊張する。
―それにしても、エルとイヴ先輩は仲が良いのか悪いのか、本当に不思議よね。休暇中まで顔を合わせるんだから。
もしかしたら、エルは早めに公国に戻ってきて、公爵家に居たりして。
カトリーナはイヴの手紙の返事を書いている時、そんな風に考えていた。
ラトリエルが、その公爵家で居候している事を、カトリーナは知らない。
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