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74.閑話~ラトリエルの焦燥(2)~


 それからは何事も無く月日が経っていき、暫く慣れずにいたレーム学園での生活も、すっかり慣れていった。


 その間、カトリーナもラトリエルも、銀髪で美人な女性の事は一度も話題にしなかった。


 けれども、時折カトリーナが上級生のクラスに向かっているのを、ラトリエルは何度か目にしていた。


―まだ、例の女性を探しているのかな?


 最初に聞かれてから、かなり時間は経っているのに、未だに見つかっていないらしい。カトリーナの言う女性は謎のままだ。一体何者なんだろう。


「僕も探すの手伝うよ」と何度か声を掛けようとしたが、あの日見たカトリーナの悲し気な顔がぎって、結局背中を見送るだけになるのだった。


―僕が知っているはず、かぁ。


 カトリーナはどこで、その人と知り合ったんだろう?

 そもそも、何故カトリーナはその人に会いたいんだ?


 ラトリエルは、自分も暇が出来た時に上級生のクラスを覗いてみたが、銀髪の生徒はどこにも見当たらない。上級生たちは、読書をしたり課題に集中したりで、話しかける事なんて出来なかった。誰もが近づきがたい雰囲気を纏っている。




―「レーム学園の殆どの生徒が、日陰を好む虫みたいな人の集まりだ。独りでこそこそ、何かしらで時間を潰す」


 2年ほど前、一年次を終えて実家に戻ってきたイヴが、そう話していた事を思い出す。


 叔父一家によって自分の屋敷から追い出された後、いろいろあって、運よくラトリエルは、フォルカー公爵家の援助を受ける事が出来た。


 フォルカー公爵は何も言わなかったが、唯の慈悲で助けて貰えたわけではない。その事を教えてくれたのは、イヴだった。公爵がラトリエルに何を求めているのかは、教えて貰えなかったけれど。


 堅苦しいのは好きじゃないからと、砕けた対応を好むイヴに、ラトリエルは親切にされた事もあって、最初は好感を持っていた。


 けれども、その好感度は直ぐに消える事となった。




―そういえば何回か見に来たけど、イヴとも全然会わないな。


 レーム学園に来てイヴと顔を合わせたのは、入学式の日、医務室に担ぎ込まれた時だけ。目を覚まして早々に訪れたイヴに、倒れた事の嫌味を言われたから、会いたいとは全く思わない。


 医務室で安静にしている間、カトリーナが一度も見舞いに来ない事に、落ち込んでいたラトリエルにとって、定期的に魔力を分け与えに来るイヴの嫌味は、更に気を落ち込ませたのだ。

 

―イヴなら、カトリーナが探している人を知っているかもしれない。


 正直、頼りたくはない。

 けれども、長い間一人で探しているカトリーナの事を想うと、力にはなりたい。


―レーム学園の上級生に知り合いなんて、他に居ないし……。


 ラトリエルは自室に戻ると、手紙に簡単に要件をつづる。


〈銀髪で美人な2年生以上の生徒って知ってる?友達が探してるんだ。〉


 書き終えると、伝書でんしょ魔法をかけて飛ばす。魔法のかかった言伝ことづては、折り畳まれて鳥の形になると、窓の外に飛んで行った。


―これでカトリーナが話してた人がわかるな。どんな人だろう。もしかしたら、僕が忘れているだけで、相手は僕の事を知っているのかな?


 だとしたら、ちゃんと謝らないと。

 そんな事を思っていると、思ったよりも早く返事が届いた。


 ラトリエルが送った言伝の紙に、直接書き込まれた返答はたった一言。

 文面の〈美人〉の所に矢印を伸ばして、



〈僕。〉



 ラトリエルは、紙をぐしゃぐしゃに丸めて屑籠くずかごに捨てた。

 恩人だとか関係ない。イヴなんて大嫌いだ。




お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


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