73.閑話~ラトリエルの焦燥(1)~
※ラトリエル視点の連続投稿です。本日は3話です。
「銀髪で美人な上級生?」
それは、ラトリエルが授業に出席する様になって直ぐの頃―
カトリーナに紹介して欲しいと聞かれた人物に、全く心当たりがないラトリエルは、首を傾げて腕を組んだ。
銀髪と聞いて浮かんだ知人は一人居るが、カトリーナには絶対に会わせたくない。しかも、彼は男だ。確かに整った顔をしているが……。
「その人は女性だよね?」
ラトリエルが念の為に聞くと、カトリーナは短く「女性」と言い切る。
その時点で、ラトリエルの知る銀髪は除外された。その事に安堵するも、カトリーナの言う「ハスティー卿と親しい銀髪で美人な女性」は、謎に包まれている。
「最初に会った時に名前を聞きそびれちゃったから、ちゃんと確認したくて……」
困惑するラトリエルにカトリーナは、
「変な意味は無いから、安心して。私は物語の悪役じゃないわ」
とよくわからない事を言うも、本当に誰の事なのか見当もつかない。
カトリーナの願いは何だって叶えてあげたいが、知らないものは知らない。
「その人は僕の事を知ってるの?」
そう聞くと、カトリーナは怪訝な顔をする。
「えぇ、勿論よ。……もしかして、聞かれたくなかった?」
不快に思ったなら謝るわ、と目を伏せるカトリーナに、ラトリエルは慌てて首を振る。
「そ、そんな事ないよ。ただ本当に、全く身に覚えが無いんだ。誰の事だか見当も付かないよ」
ラトリエルが必死に弁明するも、カトリーナは寂しげな顔をして、
「そう……わかったわ。引き留めてごめんなさい。じゃあ、私は行くね」
と言って立ち去った。
離れていくカトリーナに、ラトリエルは妙に胸がざわついた。
―僕は、何か間違えただろうか?カトリーナを悲しませるつもりは、全く無いんだけど……。
この時、ラトリエルには知る術がなかった。
借りたハンカチを返すため、クラリス(カトリーナがそう勘違いしている)と会わせて欲しかったカトリーナが、
「ラトリエルに嘘を付かれた」とか
「私には会わせたく無いのかしら」とか
「いくら私の性格が悪くても、友達の婚約者に意地悪なんてしないのに」とかを
悶々と考えていた事を。
失恋した時の様な悲しみは無かったが、ラトリエルの顔を見ると少し気持ちが揺らぐカトリーナが「婚約者」とか「クラリス」の名前を無意識に避けたのが、今回のすれ違いの要因だった。
そんなカトリーナの勘違いなど分かるはずも無く、ラトリエルは、一人呆然と立ち尽くす事となった。
その事があった翌日、カトリーナはいつも通りに授業に出て、いつも通りにラトリエルと話した。昨日の悲し気な顔が嘘のように、カトリーナは可愛らしく微笑んで、ラトリエルの隣に座った。
エステル姉妹達と談笑している時も、精霊プレオと戯れている時も、その愛らしさに一点の曇りはない。
―昨日変な感じで別れたから心配したけど、いつも通りみたいだし、良かった。
もしかしたら避けられるかもしれないと思い悩み、その時は全力で謝って追いすがる所存だったラトリエルは、そうならなくてホッとした。
いっその事、そうなった方が誤解は早く解けたかもしれないが。
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