7.荷造り~その前に妹と父親を黙らせる~(3)
「どうして、私が逃げ出す必要があるの?」
カトリーナの言葉に、父親は言葉を失う。
いい加減に用事を済ませたいカトリーナは、二度と邪魔が入らない様にと、面倒だが念入りに説明することにした。
「あのね、お父様。私がここ数日で何人消したと思っているの?お父様は知っているでしょう」
だって、お父様の命令で、毎日誰かしら私を始末しに来るんだもの。
「まさか自分たちは貴族だから手に掛けられないと、まだ考えているんですか?私はお父様たちを始末して、例えその事で罰せられても、痛くも痒くもありませんよ」
かつて貴族である自分の家族を葬った、自らも貴族である未成年の青年に下った判決は終身刑。判決が下った数年後―彼は、記者のインタビューでこう答えたという。
「ここでの暮らしは楽園の様です。質素ながらも清潔な食事を与えられ、誰も僕の事を理不尽に殴ることもない」
「父や母の気まぐれで、熱した棒を腹や腕に押し付けられる事もないんです。真面目に仕事に取り組んでさえいれば、誰も僕に痛い事をしないんですよ」と。
カトリーナは事例を上げて説明する。
「私も彼と同じことを感じると思うわ。今までの暮らしに比べたら、監獄なんて楽園のようなものじゃない―だから、私には貴方達を消すメリットはあってもデメリットは存在しないのよ」
「そしたら、ほら。私は恐ろしいレーム学園に行かなくてよくなるでしょう?未成年だから処刑される事もないわ。憎くてたまらない家族の顔も二度と見なくて良いし。こんな良い事づくめの案は無いでしょう?」
ねぇ、お父様。
「わかって貰えましたか?私に逃げるつもりも、必要もないって」
わかったら二度と私の邪魔をしないでくださる?
お互いにとって、もう少しの辛抱じゃない。
私がレーム学園に旅立つまでの少しの間、私の邪魔をしないだけで、貴方達は生き長らえる事ができるのですから。
カトリーナが説明を終えた時、父親は動かなくなっていた。立ったまま白目をむいて気絶していたのだ。
―ちゃんと聞いていたのかしら?けどもう、流石に理解できたでしょう。出来ていないなら天性の馬鹿だわ。
カトリーナは白目を向いたままの父親をそのままに、ようやく町に向かうことができた。
買い物のくだりは、正直書くほどのことはない。
カトリーナが買いたかったのは、旅行鞄と日用品。他に、寝間着用と普段着用に下着などの衣服を数着ずつ。
たった、それだけだったのである。
カトリーナは朝食の後、荷造りをしようと部屋に戻った。
けれども、自分には持って行くものがないどころか、荷物を詰める鞄すら持っていないことに気が付いた。そこで、これを機に買い揃える事にしたのである。
たったそれだけのものすら持ちあわせていなかったカトリーナは、初めて自分で稼いだお金で、初めて自分の持ち物を得た幸せを、生涯忘れる事はなかったという。
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