表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/124

69.フォルカー公子のイヴ(1)


「ヴィンセント・イヴ・フォルカー。以後、お見知りおきを」


 銀髪の人が恭しくお辞儀をして名乗る。

 ヴィンセント・イヴ・フォルカー。そう名乗った銀髪の美しい人は、顔を上げると、にこりと微笑んだ。


―クラリスじゃなかったのね。完全に勘違いしていたわ、恥ずかしい……。


 カトリーナは、自分の思い込みに顔を赤くしつつ、もう一つ気になる事を尋ねる。


「フォルカーって、ホルムクレン公国の……」

「そう、ここレーム学園理事長であり、公国を治めるフォルカー公爵の()()()()さ」


 それを聞いて、カトリーナは衝撃の事実に叫ぶ。


「ええっーーーー!!男の人だったの!!?」



 叫んだ瞬間、カトリーナの身体がフワリと浮き上がる。

 慌てて周囲を見ると、ラトリエルや銀髪の人―フォルカー公子も浮き上がっていた。

 そして、遠くには鬼の形相でこちらを見る、先程の司書。


「いい加減にしなさい。今日はもう出禁です」


 怒気を滲ませ、静かにそう言うと、司書はペンを持った手を投げやりに振りかざして、カトリーナ達をそのまま廊下に放り出した。




「ごめんなさい。私のせいで……」


 カトリーナは二人に頭を下げる。迷惑を掛けたら謝るのは当然だけれど、この時に「やってしまった事は仕方がない」と、必要以上に落ち込まないのが、レーム学園で生き残る術だ。


「いや、僕が最初に注意を受けてたから、目を付けられたんだ」


 慰めるラトリエルに対して


「あれだけ大声出したら、関係なく追い出されるでしょ」


 と冷静に口を挟むのは、銀髪の人ことフォルカー公子。


 ラトリエルがフォルカー公子に掴みかかるのを、何とか止めるカトリーナは、二人の気を逸らそうと話題を変える。


「それにしても、貴方がフォルカー公子様だったなんて驚きました。今までのご無礼をお許しください」


 フォルカー公爵家は他国の王家に仕える公爵家とは違い、彼ら自身が国を治める王家と、同等の権力を持っている。


 更にフォルカー家が治めるホルムクレン公国は、小さな島国でありながら、最も魔法技術の発達した国で、魔法が一目置かれる今の世情、大国が無視できない程の影響力を持つ。とにかく凄い家柄なのだ。


―それに現公爵の一人息子なら、彼は次期公爵―公王になられる方だわ。


 学校の中では家柄などを問わず、みな平等である。

 それを鵜呑みにできる程、カトリーナは幼くはなかった。


―知らなかったとはいえ、一伯爵令嬢が……その肩書すら無いに等しい私が、馴れ馴れしい振る舞いだったわ。



 深く頭を下げるカトリーナに、フォルカー公子は不満げに言う。


「そんなに畏まらなくて良い。僕たちの仲じゃないか。イヴって呼んでよ」


 カトリーナは、公子の顔を窺いつつ頭を上げる。目が合うと、


「僕はカトリーナって呼んでるでしょ?」


 と言った。

 初めて会った時、カトリーナが家名を名乗らなかった事を言っているのだろう。


―本人がそう呼んで欲しいって言うんだから、失礼じゃないよね。社交辞令だったとしても、私には判らないもの。


「じゃあ、イヴ先輩って呼びます」


 澄ましつつも素直に答えるカトリーナに、イヴは上品に微笑む。


「つれないねぇ。まぁ、いいか」


 そう言ってイヴは「ところで……」と腕を組みながら、神妙な顔で聞く。


「さっき、僕がフォルカー家の人間であることよりも、男であることに驚いていたよね、どうして?」


 朗らかに微笑みながらも、逃げる事を許さない雰囲気にカトリーナはたじろぎ、言葉に詰まった。


「ええっと……」


―どうしよう、怒っているのかしら?確かに異性に間違えられるのは良い気分じゃないわよね。それに私、イヴ先輩の事をクラリスだと思っていたし……。


 女性だと思っていたら男性で、想い人の婚約者だと思っていたら、思った以上に仲が悪くて。今思えば、とんだ勘違いをしたものだとカトリーナは自分に呆れた。


 カトリーナは狼狽えつつ、ずっとイヴの方を睨みつけているラトリエルをちらりと見た。

 二人は知り合いらしいけれど、険悪な雰囲気―少なくともラトリエルはイヴの事を良く思っていないようだ。


―色々と気になるけれど、今は詮索する時じゃないわ。誤解していたことを謝らないと。





お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


よろしければ評価★★★★★や、ブックマークを

お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ