68.銀髪の人の正体(2)
「あなたは、誰ですか?」
カトリーナが震える声で尋ねる。
銀髪の人は訝しみながらも「言ってなかったっけ?僕は―」と名乗るのを遮るように
「イヴ!!」
と図書室に似つかわしくない音量の声が響き渡る。
声の方を見ると、ラトリエルが見たことの無い顔をしていた。怒っている。
「図書室では静かになさい」と司書に注意を受けるも、ラトリエルにしてはぶっきらぼうに頷くだけで、返事はしなかった。
司書は不服そうにラトリエルを見るも、何も言わずに仕事に戻って行った。
こちらを―銀髪の人を睨みつけているラトリエルに向かって、銀髪の人は挑発的に、妖艶な笑みを向けた。
そんな二人を交互に見ながら、カトリーナはこの場の理解が追い付かずに見守るしかできない。
今日まで、少し前まで恋人同士だと思っていた……いや、今でもその可能性を捨てきれない二人が、こんな険悪な雰囲気になるとは、夢にも思わなかった。
「何をしているんだ」
ラトリエルが声を押さえつつも、棘のある声で言う。
何を怒っているんだろうと、カトリーナが見守る中、銀髪の人は肩をすくめて答えた。
「何って可愛い後輩と話してたんだ。ねぇ、カトリーナ」
「カトリーナ……カトリーナだって!?」
ラトリエルがわなわなと震えている中、銀髪の人がカトリーナの肩に手を置く。
その手が意外に大きい事にカトリーナは少し緊張したが、それよりも図書室に来てから、ずっと怒っているラトリエルが気になった。
「ど、どうしたの、ハスティー卿。この方とは知り合いなんでしょう?」
カトリーナが聞くと、ラトリエルは「き、聞いたのか!?」と縋るような目をしてこちらを見た。
「聞いたって何を?」
全く心当たりがない。カトリーナは首を傾げる。
その様子を可笑しそうに笑いながら、銀髪の人は言った。
「そういえば、カトリーナ。まだ貴女の質問に答えていなかったね」
そう言って、恭しくお辞儀をする。
「申し遅れました。私は―僕はヴィンセント・イヴ・フォルカー。以後、お見知りおきを」
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