67.銀髪の人の正体(1)
レーム学園での生活が完全に日常になった頃―今のところ、退学者や死者は出ていない。
「やぁ、久しぶり。入学初日以来だね」
ここはレーム学園の図書室。カトリーナが本を読んでいると、中性的な声が聞こえた。振り返るとクラリス―銀髪の人だった。
入学式から数か月は経っているから、かなり久しぶりだった。
「お久しぶりです。ようやく会えました」
カトリーナは目を疑いつつも、椅子から立ち上がる。
今日にいたるまで、何度も上級生のクラスを覗いたが、銀髪の人はどのクラスにも居なかった。
他の上級生に聞こうにも、話しかけるなオーラが強く、普段、物怖じしないカトリーナでも聞くことは出来なかった。その結果、時間が空いた時に覗き見るしか出来なかったのである。あまりに出会わないので、精霊か何かじゃないかと思い始めていた所だった。
―ラトリエルの婚約者だから、そんなはず無いに……。
「これ、ありがとうございました」
カトリーナがハンカチを渡す。
銀髪の人は「返さなくて良かったのに」と言いつつも、ハンカチを受けとった。
「時々クラスを見て回りましたが、どこにもいないので、貴女が本当に存在するか疑っていましたわ」
カトリーナが言うと、銀髪の人は「そんなに入れ違ってたの?」と笑う。
そして「確かにあまり教室には居ないから、有り得るかもしれないね」と垂れた髪を耳にかける様子を見て、カトリーナは相変わらず綺麗な人ね、と思った。
「何を読んでるの?」
銀髪の人が、カトリーナが開いていた本を覗き込む。
タイトルは『淑女の教養としきたり』。貴族令嬢を教える初歩的な教材として知られる本だ。
「書架で見つけて、思わず手に取っちゃいました」
カトリーナは本に手をやりながら、感慨深く言う。
この本は伯爵邸に居た頃、一瞬だけカトリーナに家庭教師が付いた時に与えられた教材だ。あまり良い思い出は無いが、懐かしさが勝って眺めていたのだ。
銀髪の人は物珍しそうに、本を見つめた。
「内容はかなり易しそうだね。どんな内容なの?」
「あれ?読んだこと無いんですか?」
『淑女の教養としきたり』は、貴族ならばどの家にも必ずあると言われるくらいに有名な教材なのだ。銀髪の人―貴族令嬢のクラリスは、とっくの昔に読んだことあると思ったのだけど。
―もしかして、他国では知られていないのかしら?ラトリエルの婚約者だから、クラリスも同じマシャード王国の人かと思ったけど……。
カトリーナは意外に思って聞くと、銀髪の人は「……だって、これはご令嬢が読む本でしょう?僕は読んだことないね」と言った。
目の前の人の言葉に、カトリーナは目を見開く。
銀髪の人―クラリスであるはずの美女を、穴が開きそうなほど見つめた。
―僕?今、僕って言った?この人はクラリスじゃないの?
それとも、クラリスはそういうキャラ?
「どうかしたの?」
動揺して動かなくなったカトリーナを見て、銀髪の人は不思議そうに首を傾げる。その仕草があどけない少年の様に見えて、カトリーナは混乱した。
―そういえば、
「あなたは、誰ですか?」
私はこの人の名前をまだ聞いてないわ。
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