62.謎の精霊プレオ~特別課題~ (1)
該当者全員の召喚の儀式が終わり、昼食も取り終えた後。
カトリーナは今、スローン先生の研究室に居る。いつもの4人で昼食を囲んでいた時に、スローン先生の風精霊が伝達に来て、呼び出されたのだ。
要件はカトリーナが召喚した未知の精霊について―
魔法生物の剝製やよくわからない骨格標本に囲まれた空間で、カトリーナは先生に勧められた高級そうだけど古びたソファに腰掛け、渡されたコーヒーを啜る。
―初めて飲んだけど、本当に苦みしかないのね。大人になったら、こういうのが美味しくなるのかしら?
自分には早い味だと思いつつも、カトリーナは苦いコーヒーを口に運ぶ。
その様子を「プオ?」と鳴いて見守る鼻の長い精霊。
純粋でつぶらな瞳を向ける精霊―プレオと名付けた。プレオの頭を撫でつつカトリーナは声を掛ける。
「気になるの?これはコーヒーっていうのよ」
カトリーナがコーヒーをプレオに近づけると、プレオは長い鼻を伸ばしてスンスンと匂いを嗅いだ。プレオは小さい見た目のとおり子どもらしく、研究室に召喚してから、目新しい物に興味深々だった。
「ブォ……」
プレオは短く鳴くと、カトリーナの膝から降りてコーヒーから距離をとる。
お気に召さなかったらしい。
プレオの様子を黙って見つめていたスローン先生は、ごほんと咳ばらいをして話し始める。
「えー、トレンス殿。君の召喚したそれは……」
「プレオですわ。先生」
カトリーナはプレオの名前を強調して訂正する。
プレオは自分の名前に反応したのか「プオ!」と元気よく返事をして、カトリーナの膝の上に戻った。その愛らしさに、カトリーナは自然と笑みがこぼれる。
スローン先生が「そう、そのプレオだが……」と難解を突きつけられたような顔で続けた。
「儀式の時も話したが、君の精霊……と言って良いのかわからないが。プレオは、長年精霊や魔法生物を研究している私も見たことの無い種族だ」
スローン先生は、訝し気にプレオを見つめる。プレオは、スローン先生の視線を物ともせず、我が家のように寛いでいた。
「私の専門は精霊である。であるからして、専門外である魔獣やその他の生物である可能性も考慮して、あらゆる資料を探してみたが、多少似ているものも居たが、結局プレオのような生物は記載ひとつ見つける事ができなかった」
「まだ、時間は掛けるつもりだが」と言って、スローン先生はコーヒーを口に運ぶ。
「似ているものって、例えばどんな生き物が居るんですか?」
カトリーナが好奇心で聞くと、スローン先生は早口かつ事細かに話し出した。
「そうだな。まずは「夢喰い」。名前の通り、眠った時に見る夢を食べる魔法生物だ。魔獣に分類している資料もある。魔獣は人に害を及ぼす魔法生物の事を指すのだが、私はあまりそういった分類は好きじゃないがね」
スローン先生がコーヒーで喉を潤わせつつ、話を続ける。
「プレオの丸っこいフォルムに長くぶら下がった鼻は、夢喰いと特徴が似ている。しかし、プレオは夢喰いにしては、鼻が長すぎるし耳も大きい。よって、夢喰いでは無い」
次に……と、スローン先生は更に説明を続ける。
―聞いたのは私だけど……。これは長くなるわ。次の授業までに終わるかしら。
カトリーナは安易に質問したことを後悔し始めた。
次々と他の魔法生物や精霊を挙げていくスローン先生は止まらない。
後半になると、プレオはスヤスヤと寝息を立てて眠り込んでいた。カトリーナはプレオを羨ましく思いつつも、そもそも、スローン先生に呼び出された本題にすら入っていない事を思い出してげんなりする。
「最後にこれが最も近い種族なのだが、これもまた、そうだと確定するのは有り得ない」
スローン先生の「最後に」がノレッジ校長と同じで無い事を祈りつつ、カトリーナは姿勢を正す。
「エレパース。プレオの長い鼻や大きな耳、小さな牙さえも特徴が一致している。古代から人と関わりの深い生物だが、500年前を最後に発見されていない。絶滅した動物なのだ」
スローン先生は、プレオに目を向けながら続ける。
「それに、エレパースは魔法を操れる生物ではない。プレオが召喚に応じた時点でエレパースでは有り得ないのだ。ここで考えられるのは―」
ようやく話が終わりそうだと、カトリーナは身を乗り出して期待する。
身じろぎした事で、眠っていたプレオは「プゥ?」と鳴いて目を開けた。
そんなプレオをぎらついた目をして、見定めながらスローン先生は言う。
「プレオは新種の精霊、若しくは魔法生物である可能性が高いという事だ。プレオが何物であれ、これは大発見なのだよ!!」
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