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61.精霊召喚の儀式(2)


 生徒たちが順番に前に出て、水晶玉に魔力を込める。


 魔力を受けた水晶の輝きは千差万別だ。


 火属性に風属性など属性別の違いだけでなく、同じ属性でも個性があって見飽きない。

 例えば土属性の魔力を込めたデイジーとジゼルの水晶の光は、前者は森林を思わせる若葉の色、後者は大地を思わせるオレンジ色にも似ている土の色だった。


―自分の時はどんな風になるのかしら?水魔法だから、青色とか、透明とか……。


 先に前に出る生徒の様子を眺めながら、カトリーナは自分の番を心待ちにする。



 待っている間、カトリーナが特に驚いたのは、エイミーの光属性の精霊だ。

 属性の中でも稀有な光属性であるエイミーの魔力は、透明に近い銀の光で水晶を輝かせた。


 エイミーの精霊が現れた時、スローン先生がいたく感心した。


「人の姿を模した精霊とな!なんと素晴らしい!!しかも光の精ならば、新たな精霊界の女神やもしれん。エイミー・エステル殿!この子は特に、丁重に、扱いたまえよ」


 人間の姿をした精霊は高位種族であることが多いらしい。

 そんな珍しい精霊を召喚したのは、今日の授業でエイミーが初めてだった。


―デイジーが召喚したのも、草花の小人のような精霊だったわ。やっぱり双子だから、魔法や精霊にも共通点が多いのね。


 エイミーはスローン先生の圧に緊張したみたいだが、幼い少女のような姿をした、清らかで神秘的な精霊を「ルーチェ」と愛おし気に呼んだ。


 人の姿をした精霊は、人間と会話もできるため意思の疎通が図りやすい、と『魔法生物図鑑』に書いてあった。

 けれども、ルーチェと名付けられた光の精は、エイミーに似て人見知りなのか、名前を貰って直ぐに姿を消してしまった。


―確か、召喚主に性格が似るケースもあるって本に書いてあったわ。本当に似るのね。


 自分の精霊が意地悪だったらどうしようと、カトリーナは少し心配になったが、それはそれで馬が合うかもしれないとも思った。



「次は……トレンス殿」


 カトリーナは気持ちが(はや)るのを押さえて、落ちついた足取りで水晶の前に立つ。

水晶に魔力を込めると、予想通りの水魔法だった。


 スローン先生が口ひげを撫でながら、ぶつぶつと独り言を言いながら水晶の様子を観察する。


「ふむ……。かなり膨大な魔力量だ。それでいて強力な水魔法特有の激流を思わせるような激しさがない。どちらかといえば湖を思わせる穏やかな安定さがある……」


―他の人達の時も先生が何かを言っていたのは魔力の事だったのね。水晶でも魔力量とか、特性とかって見えるものなのかしら?


 カトリーナには、自分の魔力が水っぽいな、くらいしかわからなかった。


―どんな子が来るのかしら。早く出ておいで。



 カトリーナが心待ちにして更に魔力を込めると、ポンッと軽い音を立てて煙と共に何かが現れる。


「プオーン」


 生まれて初めて聞く、例えようの無い(いなな)きが教室に響く。

 煙が消え視界が開けると、カトリーナの目の前に、小型犬より少し大きいくらいの鼻の長い白い生き物が浮かんでいた。


 白い生き物は、大きな耳をパタパタと忙しなくはためかせて浮かんでいるらしく、少しすると、くたびれたのかカトリーナにしがみ付く。


―重たっ!大きさの割に、ずっしりと来るわね。何とか抱えられるけど。


「プオ、プオーン」



 カトリーナはこのよくわからない精霊に釘付けになった。


―なんて可愛いの!!


 白い生き物はプオプオと鳴きながらカトリーナをじっと見つめる。

 純粋で優しい目は。

 全く強そうには見えない。けれども、カトリーナは直ぐにこの生き物が気に入った。



「先生、この子はなんていう精霊ですか?」


 カトリーナが嬉々として聞くと、スローン先生が今日初めて見せる困った顔をして、忙しなく分厚い本を捲っていた。何やら呟きながら、ようやく顔を上げて、スローン先生は悔しそうに答える。


「わからない。この精霊……いや、精霊なのか?私はこの生き物を見たことがない」





お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


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