6.荷造り~その前に妹と父親を黙らせる~(2)
「いい加減にしなさい、エレナ」
いつの間にか来ていた父親が、エレナの頬を叩く。
これにはカトリーナも目を見張った。
妹を叱る父親も、誰かに叱られる妹も初めて見た。
エレナは叩かれた頬を押さえながら、信じられないとでもいう様に父親を見る。
「なんで、どうしてですかお父様!なんで、お姉さまじゃなくて、私を叱るのです!?」
「カトリーナに近づくなと何度言ったらわかるんだ!」
父親の怒鳴り声に、エレナは唇をわなわなと震わせるが、何も言えない様子。
「お前達、エレナを部屋に連れて行け。私が良いと言うまで出すな」
低い声で命ずる父親に、侍女達は一言「畏まりました」と言って今度こそエレナを引きずって行く。
「何でですか!いっつも私は悪くない、お姉さまが悪いっていつも、いっつもそう言ってお姉さまを叩くじゃないですか!なんで、なんで―!」
エレナの叫び声が少しずつ遠のいていった。
「済まなかったね、カトリーナ。大丈夫かい?」
父親がカトリーナに話しかける。
「・・・・・・」
返事をしないカトリーナに苛ついた様子を見せる父親は、なおも笑顔を作って続ける。
「さっき聞こえたのだが、買い物に行きたいらしいな。お父様が商人を呼ぶから何が欲しいのか―」
「結構です」
カトリーナは冷たく言った。
父親のこめかみに筋ができる。本当はこうしてカトリーナに話すことも、嫌なのだろう。
「そう言わずに、伯爵家の娘が平民の店で買い物なんて恥ずかしいだろう」
「いいえ、見ず知らずの平民の方が信用できます。お父様から貰っても、怖くて使えませんから」
―毒でも塗られていたら、流石に私も無事ではいられないもの。
「いいから、外に出るなと言っているんだ。どうせ逃げるつもりだろう」
優しい父親のフリを止めて、高圧的に言う父親にカトリーナはため息をつく。
「どうして、私が逃げないといけないのです?」
呆れながらも尋ねるカトリーナに、父親は怒りで顔を赤くして捲し立てる。
「レーム学園に送られるのが嫌で逃げ出すに決まっているだろう!!あんな悍ましい噂の学校に喜んで行くなんて考えられない!私達を油断させておいて、そのまま逃げだすつもりだろう!!」
父親の言葉に、カトリーナは堪え切れずに「あはは」と声を出して笑った。
「あー、おかしい。エレナが馬鹿なのってお父様に似たのかもしれませんね」
「親に向かって馬鹿とはなんだ!」
「仮に私がレーム学園に行きたくなかったとしても、逃げ出す必要なんてあるわけないじゃない」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら、カトリーナは続ける。
「だって、私を無理矢理追い出そうとするお父様やお母様、目撃者のエレナにこの家の使用人。全員を殺してしまえばいいんだもの。どうして、私が逃げ出す必要があるの?」
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