5.荷造り~その前に妹と父親を黙らせる~(1)
この家を出て、魔法を勉強できる―
父親から予想外の朗報を聞いたカトリーナは、もうここに用はないとばかりに席を立つ。
「どこに行くんだ!?」
父親の言葉を無視してカトリーナは部屋に戻った。そして、枕元に保管していた自分の持ち金を確認する。
もちろんこれは小遣いではなく、ここ数日、自分で稼いだものだ。魔法を惜しみなく使えば、子どものカトリーナでも簡単なギルドの依頼は余裕でこなせる。
初めてカトリーナが超初心者向けの依頼を受けて、魔法で魔物を討伐して戻ってきた時、ギルドの大人たちは驚いた。
ただの少女だと思っていたカトリーナが、魔法を使って獲物を仕留めたからだ。
この国で、魔法士は貴重な存在だ。
カトリーナの実力をみたギルドの大人たちは「ぜひ、うちのパーティーに!」と競う様に勧誘してきた。
簡単な魔法しか使えない少女でも、早いうちに自分たちの戦力として、育てたかったのである。
―私って天才なのかも?
人生で持て囃されたことのないカトリーナは、それらの勧誘にかなり乗り気だった。
けれども、依頼で試した魔法を家の人間達への仕返しに使いたかったので、勧誘は泣く泣く断ったのである。
この日の夜、カトリーナを襲いに来た男を水球に閉じ込めて窒息死させた魔法は、魔物の討伐依頼で身につけた魔法だった。実践の経験が生きた瞬間だ。
カトリーナは知らなかったが、魔物を包み込むほどの水を作り出す魔法は、中級以上の難易度だった。
―残念だったけど、勧誘は断ってよかった。引き受けて家に帰らなかったら、学校に通えなかったかもしれないし。
カトリーナは、ギルドでの出来事を思い出しながら、自分の判断の正しさを称賛する。自分で稼いだお金を確認すると、大切に小物入れにしまう。
今から買いたいものがあるのだ。
外に出ようと玄関に向かう途中、朝食を終えたらしいエレナが行く手を阻む。
「お姉さま、どこに行くのですか!?」
仁王立ちしたエレナの後ろには、二人の侍女が恐る恐るといった感じで控えている。
「どこって、買い物よ。荷造りに必要だから」
カトリーナの言葉にエレナは、きょとんとした顔をする。
「お買い物?それなら家に定期的にくる商人から買えば・・・ああ、そっか!」
エレナは意地の悪い笑顔を浮かべて続ける。
「お姉さまって何も買ってもらったことがないから、家に来る商人の事を知らないのね!ごめんなさい、気が利かなくて。町に降りてお買い物なんて、私やったことないから思いつかなかったわ」
私はお父様やお母様にたくさん買って貰えるもの!と得意げに話すエレナの口を、侍女二人が慌ててふさぐ。
「エレナお嬢様、お願いです!何も言わないでください!」
「旦那様や奥様に叱られますよ!」
侍女の行動にエレナは眉を吊り上げる。
「なにするのよ。侍女の分際で!」
侍女達の手を引っ叩いて怒鳴るエレナだが、自分たちの命がかかっている侍女たちは、一歩もひかない。
何とかしてエレナをこの場から離れさせようとするが、エレナが侍女の言う事など聞く訳が無かった。
―この子って本当に私の妹なのかしら?
聞き分けの無い妹の様子を見て、カトリーナは呆れた。
こんなのが妹だなんて恥ずかしい。
けれども、レーム学園に行けば、この馬鹿な妹に邪魔されることは、二度と無くなるのだ。
―あと少しの辛抱ね。
カトリーナは大きなため息をつく。
その様子に、エレナを止めていた侍女達がびくりと震え、こちらをじっと見つめるが、カトリーナとしては、どうでも良かった。
自分の邪魔さえしなければ。
「もういいかしら?貴女に構う時間も、その気も無いのよ」
そう言って玄関に向かうカトリーナを「まだ、話は終わって―」エレナが止めようとするも、バチンッという音に遮られた。
「いい加減にしなさい、エレナ」
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