表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/124

49.魔法が使える前提の校舎(2)


 何もない空間から現れた青年は、ファンソンの悲鳴に驚くも「何もないじゃないか。驚かすなよ」と小言を言った。


 そもそも、この人は誰なのだろうとカトリーナが思っていると、青年は「まぁいい」と言ってカトリーナ達を含めた全員に向かって話し出した。



「新入生諸君。ここまで来てくれたこと、レーム学園の先輩として心から嬉しく思う。もう集合時間を過ぎてしまったが、全員揃ったか?」


 先輩の問いに、丁度目の前にいるカトリーナは、彼と目が合ったのもあって「私が最後にゲートを通りました」と答える。

 全員揃った、とは言いたくなかった。カトリーナにとって、一番大事な人がこの場に居ないからだ。


 カトリーナが答えると、先輩は「そうか」と頷き「荷物はそこにある魔方陣の上に乗せてくれ。自動で自室に振り分けられる」とロビーの隅を指差す。


 言われた通りに魔方陣の上に乗せると、旅行鞄はパッと消えた。


―凄いわ。いつか自分でも描ける様になるかしら。


 カトリーナが戻ってくると、先輩はまた全員に向かって説明を始めた。



「これから、入学式が始まる。今から俺が君達を会場―講堂に連れて行くが……時間が押しているから歩きながら説明する。皆、付いて来るように」


 先輩はそう言って踵を返すと早足でロビーの外へと向かう。

 新入生たちは慌てて彼に付いて行った。


―連れて行く時は魔法じゃないのね。わざわざ歩かせなくていいのに。


 カトリーナはそう思ったが、移動魔法―青年が使った転移魔法は、他者にかけるのはかなりの実力者でないと、取り返しのつかないことになる為、生徒は禁止されている。その事を、カトリーナを含む新入生たちは知らなかった。



「紹介が遅れたが、俺の名はパトリック。3年生次席。本来この役目は3年の首席様が担当だが事情が変わってね。急遽、俺が担当になった」


 先輩―パトリックは早口で説明をした。本来なら聞きづらい筈の説明は、廊下に軽く吹いている風によってパトリックの声が新入生全員の耳にはっきりと届いている。そういう風魔法があると『はじめてのまほう』に書いてあった。



 パトリックが歩を緩めず、早口で入学式の説明を続ける。要は式の間、長い話を延々と聞くことになる事はよくわかった。


「伝統行事だから仕方がない。退屈するのは間違いないが、眠らずに聞くことをお勧めする。1年生の最初の魔法史テストでは、入学時の校長の話が8問も出題された過去がある。今年がそうかは知らないが」


 パトリックは新入生にとって有益な情報を話してくれていたが、カトリーナは気も(そぞ)ろだった。ラトリエルの様子が気になって、正直、講堂よりも医務室に向かいたいのが本音だった。


―結局レスターには聞けなかったし。心配しかないわ。


 待ちに待った入学の時を、こんな憂鬱な気分で向かえるとは思わなかった。

 けれども、それは仕方がない事でカトリーナには何もできる事はなかった。


 それに、カトリーナは早々に人の心配をする余裕を無くした。まさかの体力不足で。




 パトリック率いる新入生は、文字通り歩き続けた。大分歩いたというのに、態と大回りをしているんじゃないか思う程に、講堂に辿り着く気配はない。


 先頭を歩くパトリックは、遅れた時間を取り戻すかのように速度を緩めない。説明が終わると「予定よりも大分遅れている。少々きついかもしれないが、頑張ってついて来てくれ」と言ったきり、無言で歩き続けている。


 新入生たちはその後に続くが、だんだん生徒によって開きが出てきた。

 特に貴族令嬢たちは次々と遅れ始め、カトリーナもその一人だった。


 歩き慣れているらしいテオやファンソン、見るからに体力のあるレスター、異国の民であるカグラとフー達と、だんだん距離が空き始めている。


 意外なのはマルガレーテが彼らの歩調に付いて行っている事だった。

 彼女もカトリーナ達の前を颯爽さっそうと進む。令嬢の中で一番、長距離を歩くことに無縁そうであるのに、涼しい顔をしてきびきびと歩く様は、有能な女官を彷彿とさせた。


 最後尾はアザミで、カトリーナよりも更に後ろをよろよろと歩いており「ゼェ、ゼェ」と息を切らす音が、聞こえる程だ。

 それが耳障りだったのか、マルガレーテがあの冷たい目をして振り返るも、アザミはそれどころではなさそうで、改めはしなかった。


 可哀そうなことにジゼルはアザミに腕を掴まれていて、一人大荷物を引きづって歩くような状態になってしまっていた。すがるように前の方とアザミを交互に見ていたが、どちらもジゼルを気にする余裕はなかった。



 レーム学園の校舎が、歩いて移動するように作られていないことは明白だ。カトリーナは、疲労でだんだんこの構造に腹が立ってきた。


―こんなに広く入り組んだ校舎にしたのは誰なのよ!魔法学校だからって、全員が移動魔法を使えるわけじゃないわ!


 誰しも初めから魔法が万能に使えた訳では無いことを、創設者様は忘れてしまったらしい。カトリーナは、出会い頭に転移魔法で現れたパトリックの事が羨ましくなった。


 授業が始まったら魔方陣よりも何よりも、いの一番に移動魔法を習得しようとカトリーナは決めた。



お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


よろしければ評価★★★★★や、ブックマークを

お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ