45. ようやくレーム学園へ(3)
長い階段を全て降りると、暗くて広い場所に出た。コルファー先生が手を軽く振ると、壁にある松明全てに灯がともる。
「ご覧ください。皆さん」
コルファ―先生が向かった先に目をやると、一面の壁いっぱいに模様が描かれている。これが魔法ゲートの様だ。
何百年も昔に描かれたらしい魔法ゲートは古ぼけているが形はしっかりと保たれている。厳重な保存魔法がかけられているのだ。
「今から皆さんには、この魔法ゲートを通ってもらいます」
コルファ―先生が説明を始める。
「無事にたどり着けた方は、校内の植物園に転移します。転移すると案内がありますので、それに従って校舎に向かってください。その後、直ぐに入学式が始まります」
「では、名前を呼ばれた方は、そのままゲートに進んでください。まず最初は―」そう言ってコルファー先生は指を鳴らす。
すると、何もない空間からリストが現れ、先生の手に収まる。その様子にカトリーナは目を輝かせた。
―すごく便利な魔法!どうやったら出来るのかしら!?
リストに視線を落としたコルファー先生が最初の生徒の名前を挙げる。
「デイジー・エステル。前へ」
呼ばれたデイジーは「はい」と行儀よく返事をすると、魔法ゲートの前に立つ。
けれども、魔法ゲートは光り輝くとか、植物園に繋がる穴が出てくるわけでもなく、何の反応も示さない。
「……あの、どうやって通ったら……?」
困惑するデイジーに、コルファー先生は「大丈夫ですよ。そのまま壁に向かって進めば、通ることが出来ます」と説明する。
コルファー先生の言葉に戸惑いながらも、デイジーはこわごわと壁―魔法ゲートに向かって進んだ。
すると、デイジーは壁をすり抜けて見えなくなってしまった。
「え、大丈夫なの?」
少女―ジゼルが、デイジーの消えていった壁を凝視して、不安そうに呟く。ジゼルは男爵家の令嬢で、よくアザミの話に付き合わされている不憫な娘だ。
「続いて、エイミー・エステル。前へ」
エイミーは駆け足で前に進むと、何の躊躇いもなく魔法ゲートに消えて行った。早く、姉の傍に戻りたいのだろう。
―二人は無事に着いたかしら……。
カトリーナが心配している間も、次々と子ども達が魔法ゲートに進む。
「ラトリエル・ハスティー。前へ」
コルファー先生に呼ばれて、ラトリエルが魔法ゲートに向かう。カトリーナは、言い様の無い不安に駆られた。
―もし、嫌な予感が当たってラトリエルに何かあったら……
初日の事前説明の記憶がよみがえる。
そして、カトリーナの不安を煽るように、コルファー先生がラトリエルに諭すように言う。
「本当に通るのですか?今からでも遅くありませんよ」
コルファー先生は強くは止めないが、ラトリエルに辞退して欲しそうだった。止められない理由でもあるのだろうか。権限がないだけなのかもしれないけれど。
「先生もご存知でしょう。僕は行かなければならないんです」
ラトリエルは、コルファー先生に淡々と言う。
コルファー先生は目を伏せて、ラトリエルから目を逸らした。
「ハスティー卿」
カトリーナは不安が大きくなって、たまらずにラトリエルを呼んだ。彼の事をまともに呼んだのは、もしかしたら初めてかもしれないと、カトリーナは思った。
婚約者がいる(カトリーナはそう思い込んでいる)異性の事を名前で呼ぶのは無作法である。
こんな時でもラトリエルに良く見られたいと考えている自分に、カトリーナは吐き気がした。
ラトリエルはカトリーナの方をちらりと見ると、何も言わずに魔法ゲートを通り抜けた。
魔法ゲートは、他の子ども達の時と同じく変化はない。
ラトリエルの転移が成功したのか、それとも失敗したのか知る術は、今のカトリーナにはなかった。
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