42. 復讐への布石(2)
ラトリエルの腕に絡み、しな垂れかかるアザミを見てカトリーナは怒りで、体中の血が沸騰したみたいに熱くなるのを感じた。
―汚い手でラトリエルに触らないで!!!
カトリーナは、時期が来るまで大人しく過ごす作戦の事など頭から跳ね除けて、魔法を使おうとした。
けれども、その前にバチッという音がしたかと思うと「痛い!!」と叫んでアザミがラトリエルから離れる。
ラトリエルが雷魔法を使ったのだ。簡単な静電気を、魔法で意図的に起こしたのだろう。
アザミはまじまじとラトリエルを見つめる。
悲鳴をあげた割に、怪我はなさそうだ。
「な、何するのよ!ちょっとイケメンだからって私にこんな事をして……!許さないわよ!!」
猫なで声を止めてぎゃあぎゃあ喚くアザミに、ラトリエルは吐き捨てる様に告げる。
「許さないはこちらのセリフだ、放火魔。とっとと失せろ」
美人の凄みを正面から受けたアザミは、ヒッと短い悲鳴をあげて一瞬固まった。
が、しかし、カトリーナの方を見るとまた怒りに満ちた顔をして、怒鳴り始める。
「アンタがラトリーに嘘を吹き込んだんでしょう!!当てつけみたいに男の格好なんてしちゃって!人殺しのくせに嘘つきなんて、本当にどうしようもないわね!!!」
昔言われたことのある罵倒に、嫌でも父親の事が頭に浮かぶ。
―お父様って、子どもレベルの罵倒しか出来ない人だったのね。
カトリーナは鼻息を荒くしているアザミを一瞥すると、ラトリエルの袖を掴んで「巻き込んでごめんなさい。もう、行きましょう」と声を掛ける。
「気にしなくていいよ。純粋に僕が不快に思っただけだから」
ラトリエルはそう言ってカトリーナの肩に手をまわして―おそらくアザミに見せつける為だ、出口に向かった。
カトリーナとしては、役得だったのでそのままラトリエルに付いて行く。
ここ数日のアザミとラトリエルのやり取りで知ったのだが、ラトリエルは嫌いな相手はどんな手を使ってでも攻撃する。例えその手が、他人を利用する術だとしても。
―私の事が好きだから……。なんて妄想できたらどんなに幸せだったかしら。
カトリーナ達に続いて、デイジーとエイミーも出口に向かった。
簡素な雷魔法を受け、相手にもされなくなったアザミは地団太を踏んで悔しがる。
「何よ!!アンタ達わかってんの!?その女を庇うってことは、アンタ達も同罪なんだから!!!」
一人で叫んでいるアザミを置いて、カトリーナ達は大食堂を出た。少し前までざわついていた大食堂は、アザミの声以外は静まりかえっている。
こちらの様子を見つめる子ども達の表情は様々だ。呆れ、疎ましさ、同情、そして―無関心。
関わりたくないという雰囲気が、ありありと伝わった。
―入学前から変な目立ち方をしたわ……。
カトリーナはため息をついて、前を歩くデイジーの方を見る。
―皆の事も巻き込んでしまった。特にデイジーは他の子達とも仲良くしていたのに……。
社交的なデイジーは、初日から色々な子と交流があった。今も残っている何人かとも、話しているのを見かけたことがある。
けれども、この3日間誰もデイジーに声をかける子はいなかった。
「どうかされました?」
カトリーナが見ていることに気が付いたデイジーが、優しく微笑む。
「ううん。何でもない」
「そうですか?さっきの事なら心配しなくて大丈夫ですよ。これから聖地に向かうと決めた方々が、変に意地悪なんてしないでしょうから」
「まぁ、あの方は例外みたいですけどね」とアザミの事を揶揄って笑うデイジーに、カトリーナは初めて自分の中に罪悪感を覚えた。
―デイジーは優しすぎるわ。助ける義理も無いのに私の事を案じて……。エイミーも、ラトリエルも、私のせいで傷つくことがあってはいけないわ。
アザミへの憎しみは消えない。絶対に死に追いやって見せる。
けれども、それ以上にカトリーナは3人の友達を失いたくないと思うのだった。
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