41. 復讐への布石(1)
「あら、トレンス嬢。御機嫌よう」
王城に留まる最終日の朝。
食事を終えて席を立つと同時に、顔も見たくない女の猫なで声に鳥肌が立つ。
一緒に食事をしていたエステル姉妹とラトリエルは、呆れた表情を隠さなかった。もちろん、アザミに対してだ。
―また来た……。なんで毎日関わってくるのよ。うっとおしい。
カトリーナはうんざりしながら、気だるげにアザミの方を見る。
アザミはカトリーナと目が合うと、わざとらしく悲鳴を上げて身体を縮こませた。肥えた体格のせいで、全く小さくなっていない。
「あぁ、怖いわ。そんな目で睨んで!!また私を殺そうとしたんでしょう!?な~んでこんな人がまだ残っているのかしら~?」
「……」
いつものカトリーナなら嫌味の一つでも返すのだが、この3日間は相手にしていない。
知らない人は「カトリーナはアザミに何を言われても、ろくに反論もせずに逃げる」という印象をここ数日で持った事だろう。
その成果なのか最終日にもなると、周囲のカトリーナを恐れるような視線は薄れてきていた。
けれども、カトリーナの目的はアザミを殺しかけた事への弁明ではない。
これは、アザミへの復讐の布石だ。
―アザミに罪悪感を持たせるには、やられて直ぐに叩きのめすわけにはいかないわ。レーム学園内で、己の行いから逃れられなくする。アザミ自身すらも、自らの悪を認めてしまう程に悪事を貯金させるのよ。
そして、頃合いを見て―何とかする!
カトリーナは、未だネチネチと絡んでくるアザミを縊り殺したい気持ちを押さえながら、耐え忍んだ。
「あの時は苦しかったわ~。まだ、謝られてませんけど~」
アザミの不快な猫なで声はまだ続く。
―やっぱりプランB。レーム学園に着いて直ぐに、アザミを串刺しにするという作戦に替えようかしら。その方が気が晴れるかも。
カトリーナが、元の発想よりも物騒な事を思い描いていると、ラトリエルがカトリーナの肩に手を置く。
「行こう、トレンス嬢」
ラトリエルがアザミを無視して言った。
エステル姉妹も一緒に席を立つ。
基本、誰にでも公平に穏やかに接するデイジーでさえも、アザミのしつこさに辟易しているのを隠さなくなっていたし、エイミーに関してはアザミを貫かんばかりに睨みつけている。
この3日間でエイミーへの印象がガラリと変わった。おそらく、一番気が合うかもしれない。あまり目は合わないけれど。
「ちょっと、ラトリ~」
アザミが猫なで声を更に媚びる様にクネクネとさせて、ラトリエルを呼ぶ。
アザミも面食いの様で最近はカトリーナにちょっかいをかけるだけでなく、傍に居るラトリエルに言い寄る事が増えていた。
とても腹立たしいが、ラトリエルがアザミを嫌がっているのが、カトリーナにとっては救いだった。
もし、ラトリエルが表向きとはいってもアザミに優しくしているのを見たら、立ち直れないかもしれないとカトリーナは思っていた。
ラトリー?と聞き慣れない呼び方にラトリエルの方を見ると、美しい顔が不快感に染まていた。
「変な呼び方をするな」
低い声で威圧するラトリエルにアザミは「怒った顔も素敵~!」と言って、あろうことかラトリエルの右腕に自分の腕を絡みつけて、しな垂れかかる。
「そんな女に優しくなんてしなくて良いわよ~。この女、貴方の前では大人しくしてるけど、本当は人殺しなんだから」
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